飼い犬










ACT 8









「え・・・!?うそ、なんで!?」

思わず俺の口から流れ出たその言葉に、真柴が如何にも怪訝そうに眉根を寄せた

「なんで・・・って、風呂入るのに普通、服、脱ぐだろ?」

「そりゃ、そうだけど・・・!真柴、今まで一度も・・・!」

言いかけて、慌てて視線を反らしてしまった


だって


今まで俺を風呂に入れるのに、ずっと服を着たままだった真柴が
実に脱ぎっぷり良く、着ていた服を全て脱ぎ捨ててしまったから

「ジュン?どうしたの?」

視線を上げる事も出来ずに俯いてしまった俺の顔を、真柴が覗き込んでくる

「・・・っ、あ・・の、俺、入らなきゃ・・・だめ・・?」

真柴が服を脱いでくれる事を望んでたはずなのに

今は逆に

俺のほうが服を着たままで
真柴が裸で

その、ありえないと思っていた状態と
裸になった真柴の、その、無駄のない筋肉で覆われた引き締まった肢体・・・

なぜだか直視できなくて
覗き込んできた真柴の視線からも、逃げるように目を反らしてしまった

「なんで?まさか、体調悪いの?熱でも・・・!?」

今まで一度だって、真柴に風呂に入れられるのを拒んだ事がないせいだろう

真柴が真剣に心配そうな表情になってそう言うと、俺の額に手を当ててきた

「っ!違・・・っ、熱なんて・・・!」

「でも、熱い」

「う・・・っ」

分かってる
今、俺の顔は茹で蛸みたいに真っ赤になってる

「ジュン、本当に体調悪いとかじゃないの?」

「違うよ、ほんとに、そんなんじゃ・・・!」

俺は思い切り頭を振って、真柴の問いを否定した

だって

真柴に嘘なんてつけない



俺は、真柴の飼い犬だから



「そっか。じゃ、遠慮なく」

「へ・・・っ!?」

真柴がいつもの、あの、妙に迫力のある笑顔で言うと同時に不意に身を屈めて、俺を肩に担ぎ上げていた

次の瞬間


『バシャン・・・ッ!!』


既にお湯が張られていたユニットバスの中に、俺は放り込まれていた


「ま、真柴!?」

「・・・もう、入っちゃったね」


目の前に、笑う、真柴の顔
顔は確かに笑っているんだけど、その、目が、



笑っていない



・・・・怒らせた!?



一瞬で肝が冷えた

真柴が怒ってるところなんて見た事ないけど

でも
だからこそ

怒らせたらヤバイ気がする
絶対に、真柴を怒らせちゃいけない・・・俺の動物的本能が、そう告げていた


あ・・・

そっか、あの獰猛な番犬たちが真柴の前で大人しくなるのは、この直感的本能なんだ


でも、この直感は、決して怖れとか、恐怖とか、じゃない



真柴に、嫌われたくない・・・!



そんな切実な、自分の中から湧き出る想い

だって、もう、どうしようもない

俺は、もう、真柴に魅かれてる自分を、自覚してしまったから

だから

真柴の裸を見た瞬間、浮かんだ妄想に体の中心が反応してしまって
服を脱ぐのを躊躇ってしまった

なのに・・・!

まるでそれを見透かしたかのように、真柴は俺が服を脱がなきゃいけない状況にしてしまう

その上・・・!

「ほら、ジュン、服、脱がなきゃ」

実に楽しげな口調の真柴がそう言って、湯船の中に入ってきたかと思うと、俺のシャツのボタンに手をかけてくる

湯船のお湯が、真柴が入ったせいでザザ・・・ッと勢い良く溢れ出る

もともと小柄な俺の身体がお湯の中で浮き上がりそうになって、思わず真柴の腕を、まるでそうされるのが嫌だ、と拒むかのように掴んだ・・・感じになってしまった

「っ・・・!あ、の、真柴・・・!俺、自分で・・・!」

「・・・ダメ」

「え?」

あんまり、聞いたことなかった、強い口調
真柴がゆっくりと顔を上げ、俺としっかり視線を合わせて来た

「ジュンは俺の飼い犬になるって、自分で言ったんだ。だから、今からちゃんとしつける。俺だけの犬になるんだろ?」

あの

妙に迫力のある、笑顔



多分、この真柴の笑顔が一番好き
どうやったって、逆らえない・・・・そんな気分にさせられるから

真柴の、忠実な飼い犬になった気がするから

でも・・・さ、今、真柴、聞きづてならない事言わなかった?
俺は真柴の問いに頷き返しながら、聞いてみた

「・・・で、しつける・・・?って?」

俺が頷くと、真柴はホントに嬉しそうに笑った


・・・・ああ、この笑い顔も、好き


そんな事しか考えられないって、ホント、どうしようもない


「うん。ジュンが俺に逆らえないように」

「あ・・・・」



そっか、俺、さっき、真柴のしようとした事に逆らおうとする・・・感じになったっけ
そういうの、イケナイ事、なんだ



「・・・ジュンが、どっかへ行かないように」

「え?」

俺は思わず目を瞬いた


どっかへ行く!?俺が!?
そんなの・・・絶対ありえない


「い、行かないよ!どこにも!」


思わず叫んだ俺の唇に、真柴が骨ばった指先を押し当てて来る

「・・・口では、いくらでも嘘はつけるんだよ?ジュン?」

「そんなこ・・・んぅっ!?」

反論・・・って、これも逆らう事になるのかな?・・・しようとした俺の口の中に、真柴がまるでそれ以上喋るなと言わんばかりに、押し当てていた指をねじ込んで来た


「嘘じゃないんなら、舐めて?」


真柴が、そう、言った



・・・それくらいじゃ、全然、足りない



真柴に俺の言ったことを信じさせるためなら

俺は、本気で

真柴の体中、舐め尽してやる・・・!



ホンキで、そう、思えた




トップ

モドル

ススム