飼い犬・番外編


『犬の居る生活』=2=(ラッキー視点)













あ。

どうも、はじめまして

僕の名前はラッキーと言います

潤也さんの飼い犬です


潤也さんは僕の命の恩人で
生まれたばかりで捨てられて、残飯を漁っていたら、どこかのチンピラに面白半分に袋叩きの目に合いました

全身血だらけで

ボロギレみたいになって、公園の片隅で死に掛けていたら、潤也さんがみっちゃん先生の病院に連れて行ってくださり

そこで命を救われました

今でもみっちゃん先生と潤也さんには、足を向けて寝られません

お二人とも、僕の大事な、大事な、命の恩人です
何があっても、僕はこのお二人を守ろうと、心に誓っています



潤也さんの家は、その病院から歩いて5分くらいのところにあって、すごくきれいで大きなマンション・・・とかいう、ものの一室

このマンションは、ペットを飼っても良い事になっています

僕以外にも、飼い犬やら飼い猫・・・たまに見た事もないような爬虫類とか、フェレットとかの小型の哺乳類・・・なんかも見かけます

まあ、それぞれに部屋があるわけですから、縄張り争いなんかになる事もありません

いたって平和

餌にも困らないし、当然、外敵も・・・・

って!
いえいえ!!
僕には実は天敵ともいえる敵が居ます!!


名前は涼介


潤也さんの家の同居人です

こいつがまた・・・!

油断ならない強敵です!

まだ僕が小さくて本当に仔犬だった頃
その頃からすでに、僕は本能的にコイツを敵だと感じていました

潤也さんと同じく人間なはずなんですが、匂いが違います
人間・・・というより獣に近い匂い

これは、みっちゃん先生にも感じた匂いです
でも、みっちゃん先生は良いんです
なんていったって、僕の命の恩人なんですから!

問題なのは、涼介!

人間のクセに獣に近い匂い・・・ということは、十分、潤也さんを襲う危険性がある・・・ということです

獣の本性を、人間の皮を被って隠してるわけなんですから!

ですから僕は、ケガが治ってこの家に来た時から、潤也さんを守るためにあらゆる努力を惜しみませんでした

まずは、涼介との体格差!

これを補う為に、僕はたくさん、たくさん、ご飯を食べました
そのご飯代・・・というものが、ほとんど涼介が働いて稼いだものだった・・・なんてこと、子供だったこの頃の僕は知るはずもありません

そんな事もあって

涼介は涼介なりに、僕の成長を影ながら見守っていてくれてたみたいです

でも

潤也さんが僕に構うのが気に入らないらしく、何度もイジワルされました

僕の背がまだ小さくて、ドアノブにもとどかなかった頃

夜になると、いつも僕は涼介に二人が寝る部屋から追い出されていました

昼間

僕が一人で留守番してる時は、どの部屋にも出入りは自由で、その二人が寝ている大きなベッドは、とても寝心地が良くて僕のお気に入りの場所でもありました

そのベッドの上で、潤也さんも良く遊んでくださって、一緒にお昼寝だってしたことがあります

潤也さんはなんだかとても良い匂いがして、小さい頃は潤也さんに抱っこされるのが一番好きでした

お肌も張りがあって、瑞々しくて、すごく舐め甲斐のある素肌の持ち主でもあります

舐めると、そこはかとなく甘くて、顔だけじゃなく手も足も、一緒にお風呂に入る時には、それこそ全身、どこを舐めても美味しいのです

それに

あちこち舐めていると、潤也さんは時々とても良い声を出してくれます

聞いているだけでなんだかゾクゾクくる、雌犬が発情してる時のような・・・そんな鳴き声とほのかな香り・・・

もっと聞きたくて、一度お風呂に入ったときに調子に乗って、潤也さんがダメだって言ってるのを聞かずに舐め続けていたら・・・突然、涼介が乱入してきて、僕はガツンと頭を殴られ、風呂場から強制退場させられてしまいました

ずぶ濡れなままリビングに放り出され、涼介と潤也さんだけがお風呂場に・・・

すぐに

潤也さんの『やだ・・そんなんじゃないったら!ちょ・・っ涼介・・・ッ!!』という、切羽詰った声が聞こえてきて、僕は慌ててお風呂場に続く脱衣所の前のドアまで行ったのですが、如何せん、ドアを開けることが出来ません

必死で開けろ!開けろ!!と、鳴いて騒いだのですが、ドアを開けてくれる気配はなくて

そのうち

『あ・・・っ、や・・・・っ・・・・ん!』という、潤也さんの、僕が舐めてる時よりも何倍も良い声が洩れ聞こえてきて・・・

僕はもう、どうして良いか分からずに、グルグルグルグル・・とドアの前で右往左往するしかありませんでした

ずい分たって

ようやく二人が出て来たら、潤也さんは涼介にバスタオル一枚で抱き抱えられていて

僕の姿を見た涼介は、ギロリ・・・ッと震え上がるほどの獣の輝きを宿した目で僕を一瞥し、そのまま寝室に入ってドアを閉められ、朝方近くまで、潤也さんの良い声とも泣き声ともとれる声が、洩れ聞こえていました

僕が潤也さんの嫌だ・・と言う言葉を聞かずに、調子に乗ってしまったからです

僕は究極に落ち込んで・・・次の日、潤也さんにどんな顔して会えば良いんだろう・・・と、途方に暮れていました

ところが

次の日、寝室から出て来た涼介も、潤也さんも・・・なぜかすごく機嫌が良くて
いつも二人は嫉妬するくらい仲が良いのですが、その日はいつにも増して仲良しで

昨夜、あんなに涼介に虐められて、泣かされていたはずなのに・・・?

人間のこういう心情は、その頃の僕にはまだ、よく、理解出来ませんでした





そうこうしているうちに月日は流れ

僕はご飯をたくさん食べて、日々潤也さんを涼介から守るためにタックルを仕掛けては反撃の憂き目にあいながら、筋力をつけ、逞しく、大きく、成長しました

どうやら僕は、シベリアンハスキーとか言う外国の品種の犬だったらしく、青い瞳にシルバーグレイを持つ、同じマンションに住んで居る他のペットの誰よりも大きくなっていました

伸び上がれば涼介の首元ぐらいにまで顔が来る・・・程度にまで成長したのです

そう

そこまでくれば、寝室のドアを開けることくらい、造作もありません

潤也さんからも涼介からも、夜になると寝室に入ることを禁じられていました

ですが、ある日

潤也さんの鳴き声がいつにも増して激しくて

どうしても、どうしても、我慢できなくなって、ソロ・・・ッとドアを開け、中に侵入してしまったのです

薄暗い部屋の中でしたが、夜行性でもある僕は視野が効きます

中に入って、身を屈め、涼介に勘付かれないよう・・・ソロソロ・・・と音もなくベッドに近付いていきました

そこで見た、二人の行為

あれは、今でも衝撃で、クッキリと頭の中に残っています

だって

あれは、間違いようもなく、獣同士の交合だったのですから・・!

涼介なら、獣の匂いがしていたのですから分かります

でも!

あの、潤也さんまで・・・!!

涼介に劣らぬ獣の匂いを発散させ、雌犬そのものの鳴き声を上げて絡み合っていたのです

ショックでした

ご主人様である潤也さんは、普段はとても慎ましやかで可愛らしくて・・・まさかこんな風に豹変するなんて・・・!

しかも

どう見ても、どう聞いても
潤也さんは自分から進んであの涼介に跨り、涼介を組み敷いてさえいたのです・・・!

人間という生き物は・・・本当に謎です

その夜、僕は呆然としながらも二人の行為が終わるまで、息を潜めて見入っていました

涼介は

決して潤也さんを虐めて楽しんでいるわけではありませんでした
潤也さんが傷つかないように細心の注意を払いながらも、時折獣の本性を露わにして潤也さんを鳴かせます

でも、それは、潤也さんを喜ばせ、供に楽しんでいるのだと・・・二人の様子から窺い知ることが出来ました


これはとても大きな収穫でした


それまで、涼介の帰宅が遅いと、段々潤也さんの元気がなくなり、時々ベッドに潜り込んで泣いて居る時がありました

その時だけは、僕は潤也さんの言いつけを破り、一緒にベッドに入って、その涙を舐め取ってあげていました

そして潤也さんが泣きつかれて寝入ってしまうと、涼介の帰るのを待ち構えてはタックルを仕掛け、寝入ってしまった潤也さんを涼介が襲わないように、全力で阻止していたのです

でも

それは間違いだったのだと最近になって、ようやく分かるようになってきました

潤也さんは、涼介が居ない事が寂しくてたまらないのです

例えどんなに、僕が泣いている潤也さんを慰めてみても、所詮は何の解決にもなりません

涼介でないと、ダメなのです

あの、どこまでもイジワルで、僕と潤也さんの仲が良いことが気にくわない・・・嫌なやつでも

潤也さんにとっては、代わりのきかない、たった一人の存在

僕のご主人様が潤也さんただ一人であるように

潤也さんにとっても、涼介は、ただ一人のご主人様・・・なんだろうと思います


それがようやく分かった・・・あの日


僕は帰って来た涼介のために、潤也さん寝ている横のポジションを、涼介に譲ってやり、潔く寝室を出て行ってやりました

涼介はなんだかとても驚いた顔をしていたので、犬にだって、それくらい、分かるんだよ!と心の中で叫びながら、ドアを叩き閉めてやったのです

それからすぐ

思ったとおり、潤也さんの良い声が聞こえ始め・・・

僕はハァ・・・ッとなんだかやりきれない思いを抱えながら、ドアの前で護衛よろしく誰も邪魔が入らないように、見張っていました

潤也さんがご主人様である事に変わりはありません

まあ、

涼介も・・・そのうちにご主人様の相棒として、その価値と立場を認めてやっても良いかな・・・?

なんて思っています


それでも

一晩中、潤也さんの良い声を聞かされ、朝方になって覗いた部屋の中で、満足そうに眠る潤也さんと涼介の寝顔を見ていたら・・・

なんだかすごく、悔しくなってきました

僕には絶対出来ない事
僕には入り込めない世界

悔しくて
切なくて

思わず涼介の身体を押しやって、間に入り込み、あちこち何か白いもので汚れた潤也さんの身体を、きれいにしようと全身を舐め尽くしてあげました

そのうちに

その感触に目を覚ましてしまったらしき潤也さんが、くすぐったそうに身を捩り、昨夜散々聞かされた良い声とはまた違う・・・笑い声を含んだ幸せそうな声を聞かせてくれたのです

なんだか

僕にしか出来ない事を得たような気がして・・・!

一生懸命舐めていたら、不意に背後から不穏な気配に襲われて、本能的なフットワークで繰り出された涼介の拳をかわして飛びすさりました

なんだか潤也さんと二人で何か言い合っていましたが、僕には何の事だかわかりません

ただ

涼介に向ける視線と、潤也さんに向ける視線だけは、ちゃんと使い分けています

なんども言うようですが

涼介は、まだ、僕にとっては敵なのです

潤也さんにとって、どんなに涼介が大事な存在であったとしても

いえ

そうだからこそ

僕は涼介から潤也さんを守ろうと思っています

もしも、涼介が潤也さんを傷つけるような事をしたら、その時は

僕は迷わず、本気で涼介に襲い掛かるつもりです

そういう意味で、涼介は、僕にとって、天敵なのです


僕は

これからもずっと

二人の側にいて


この家の、飼い犬でいたいと思っています







終わり

お気に召しましたら、パチッとお願い致します。
読んでやったぜ






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