野良猫







ACT 5(光紀)










「は・・・っ、あ・・・っ」


自分の吐く吐息が、とんでもなく甘い

今まで仕掛けられたこともない濃厚な・・・というよりまるで、どちらがどちらの物なのか分からなくなって・・溶け合っていくかのようなキス

決して服従させようとしているんじゃなく
お互いにお互いを味わって、より一層官能を味わえる・・・そんな技巧

形勢逆転・・・そんな言葉を吐いた自分の浅はかさに、ゾクリ・・・と全身に震えが走った



・・・・・・・・コノヒトニ、クワレテイク



そう思った瞬間、駆け抜けた・・悪寒とも戦慄ともいえる感覚

なんだろうか?この感じ・・・?

動物は、喰われる瞬間その苦痛を和らげる為に、恍惚に浸れる物質を体内で作り上げる・・・とか聞いたことがある

きっとそれに近い

攻めようという意志がどんどん萎えていく
その先に与えられるモノを身体が欲してくる

制御が効かない

祐介の熱い唇が、その濡れた舌先が、ゆっくりと首筋を這い、胸元へと降りてくる

もう既に好き勝手にいじられて、自分でツンと固く尖っているのが分かるほどに育てられた片方の胸の突起

その突起を祐介の舌先がまるで形を確めるかのように、ゆっくりとなぞった


「あっ、・・・!」


ゾクリ・・ッと肌が粟立つ

今まで優しく触れてなぞるだけだったそれが、豹変した

擦るように何度も、なんども、意図を持って尖らせた舌先でそこを刺激してくる

痛いほど歯を立てられると、痛みを感じているはずなのに
その痛みが異様に心地良い

キツク吸い上げられ
甘噛みされ
尖らせた舌先でなぶられる

執拗にそんな刺激を繰り返されるほど、そこはどんどん敏感になってどうしようもなく気持ちが良くなってくる

無意識に腰が揺れて

シルクの薄い布地越しに、既に硬く張り詰めているモノが祐介の身体に触れる

そういえば

祐介はネクタイも緩めず、スーツを着たままだ
まるで自分だけが一方的に煽られて高められているようで、悔しくてたまらない

ケガをしていない右手は祐介の手と深く絡まって繋がっていて

それを自分から解く・・・のは、なんだか嫌だった

だから、解放されていたケガをしている方の左手を持ち上げて、祐介のスーツの襟に指先をかけた

すると


「ん?」


と、まだまだ余裕のある顔つきで祐介が顔を上げ、俺を見つめ返してくる

その余裕っぷりが更に悔しさを募るのに、言い募る声が上ずってまともにしゃべる事さえままならない


「・・っ、ふ・・く、ぬ・・いで!」


その言葉だけでその意図は察しているはずなのに、祐介がケガせいで力が込められない指先をやんわりと解く


「・・・無理に動かすんじゃない。痛いだろう?」


そう言って、まるで宝物か何かを扱うような手つきで、その手をシーツの上にソ・・ッと置く


「悪いけど、今日は服を脱ぐ気はないよ」

「え・・・?」


なんで・・・?と、問いかける間もなく祐介の指先がスルリ・・と脇腹を撫で下ろし、腰を覆っていたシルクの布地を剥ぎ取った


「は・・・ぁっ!」


その擦られる感覚に、思わず息を詰めて刺激に耐えた

一瞬、冷えた室内の外気に触れて既に先走りで濡れていたモノがその温度を感じた・・・と思った途端

グイッと脚を割り開かれ
すぐにそこが生温かなものに包まれて、目を見開いた

思わず見下ろした脚の間に祐介の漆黒の髪が・・・と、認識した途端、軽く先走りを吸い上げられて、ビクンと身体がしなる


「はっ、や・・・っ」


抗おうとしたけれど

クビレを確めるように甘噛みされ
温かな粘膜で上下に扱かれ
絶え間なく体液を流し続けている割れ目を尖らせた舌先で刺激され

どんどん気持ちが良くなって
喘ぐ自分の声が、吐息が、だんだん激しくなる


「はっ、・・・あっ!ゆう・・す・・け、さっ・・・!」


まるで泣いているかのような嬌声
そんな声が自分の口から流れ出ているのが、信じられない

絡まったまま繋がっている手を握りしめ、思い切り爪を食い込ませた


「あっ、・・・く、ぁ・・ィ・・・イクっ、」


限界を訴えると同時に激しく吸い上げられ、祐介の咽の奥に白濁が飲み込まれていく

腹筋が痙攣してドクドクと吐き出されるそれを

祐介が最後の一滴まで搾り取るかのように、上下に扱いて飲み下す


「は・・・・ぁ・・・・、」


一滴も残さず搾り取られたかのように、一気に脱力感が襲う

その脱力感を味わう間もなく弛緩した片足が持ち上げられたかと思うと、異様な感触を与えられて眉をしかめた

いつもなら触れられる立場じゃない、場所

そこに、生温かい何かが押し当てられる


「・・・・あ?」


ハッと思った瞬間、ヌル・・・ッとした何かが体の中に侵入してくる


「ちょ、ま・・って・・・!」


思わず半身を起こそうとしたけど、大立ち回りを演じて大量に出血して、その上クスリが利いた身体では、脱力した身体をそれ以上動かす事が出来なかった


・・・ぴちゃ


聞こえてきた濡れた水音と、温かな何かが身体の中へ侵入して来る感覚



・・・・・・・・う・・そ、普通ここまでする・・・!?



見て確めなくても、分かる
今、繋がる為の部分に侵入していているのは、祐介の、舌

それが、恐らく先ほど飲み込まずに口の中に残しておいたのだろう・・ヌルついた粘液を中に注ぎ込んでくる

ザラついた舌先が、湿った淫猥な音と供に内壁を刺激する

ゾクゾク・・とした悪寒ともなんとも言いようが無い、奇妙な感覚が背筋を駆け上がっていく

脊髄に直にクルような刺激で・・・身体に力が入らない


「はっ・・!・・・っ、」


不意に差し入れられた指の感触に、思わず息を呑んだ

いつもは自分が、相手のその部分に指を突き入れているのだ
入れられた指先が次にどんな動きをとるか・・・ぐらい予想が付く

祐介の慣れた指先は、あっという間に一番気持ちが良いと感じる場所を探し当ててしまった

そこを刺激されると、本当に何も考えられなくなるくらい気持ちが良くなるんだ・・・と、何度か組み敷いた相手から聞いた記憶がある

男が感じる快感なんて、射精するのとそう変わらないだろ・・と思っていた

だけど


「ぁ、ーーーーーーっあああぁ!」


到底自分のものとは思えないほどの嬌声が、鼓膜を震わせる
まさに電流のように駆け抜けた気持ちの良さに、思い切り身体が弧を描いて仰け反った

その上・・・!

指が差し入れられると同時に使われなくなった祐介の唇が、内部をまさぐる指の刺激に煽られて再び立ち上がってきた屹立を咥え込んできて


「はっ、や・・・・ッ、も・・・ぅ、ーーーーあぁ!!」


身体の内側に侵入し、犯すモノと
祐介の咥内に深く咥え込まれ、蹂躙されるモノと

与えられる刺激があまりに強すぎて

呼吸さえままならないほどに喘がされ、強すぎる快感が苦しくて・・・苦しくて・・・堪らない


「つーーーーーー!!!」


二度目に放った白濁も、祐介のあたたかな粘膜で締め付けられ、吸い上げられていく

一滴残らず搾り取られて
残滓さえ、舐め尽くされた

ズル・・・と引き抜かれていく指の感覚に、ビクンッと腰が揺れた

欲望を吐き出して・・・感じる脱力感だけじゃない
何かが足らない・・喪失感

でも、
クスリのせいで苦しかったモノも、同時に無くなっている


「・・・・大丈夫?」


聞こえたその声に答えたかったのに

続けて2回もイカされた上、今まであげたことも無い嬌声を上げたせいで、声が・・・でない

クスリのダルさと疲労からだろう・・・頭の中に霞がかかったみたいではっきりしない

閉じた瞼が異様に重くて・・・目を開けて祐介の顔を見ることすら叶わない

それでも

必死に、声にならない声を唇に乗せた


「・・・・ん?なに?」


ちゃんとそれに気が付いてくれたらしき祐介が、その口元に顔を寄せたのが分かった


「・・・ど・・・ぅ・・・し・・て・・・?」


ひどく、聞き取りにくい声だったと思う
でも、どうしてもこれだけは聞きたかった

だって


祐介は、結局、俺を抱いてない


「・・・ケガ人は余計な事を考えずに、眠りなさい」


そんな言葉が耳元に落とされた
それって



・・・・・・・・俺がケガしてるから、抱かなかったってこと?



ふわり・・・


と、大きくて温かな手が、俺の髪を撫で付けた

何度も
なんども

まるで小さな子供をあやしているかのような、優しい手

勝手に
まぶたの裏側が、熱くなってくる


「・・・おやすみ、光紀」


意識が途絶える寸前、囁かれたその言葉

額に優しく触れた、祐介の唇
ふわ・・・と香ってきた、祐介の香り

薄れていく意識の中で



・・・・・・・・祐介、さん



初めて、心の中で

誰かの温もりを求めて、名前を呼んだ気がした


もしも


もしも、目が覚めて

まだここに祐介が居てくれたら


そうしたら


少しは・・・自分を、大事に出来るかもしれない


そんな事を


初めて・・・思った




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