ベーカーズ・キッチン 番外編
(頂き物で、初コラボレーション小説)
SUMMER 〜夏の思い出〜
盆を過ぎて、風がほんの少し涼しくなった。
市街を見下ろす高台にあるこの場所にも風が吹く。
柔らかい風が、昼間の熱気を吸い取って、芝生の上を通り抜けていく。
ひどく明るいライトに照らされたビアガーデン。
白く丸いテーブルの向こうには智久がいて、ジョッキを呷っている。
夏の間はお互いの仕事が早く終わるし、お互いが明日休みを取っているので飲み
に行こう、ということになったのだ。
「孝明、お前何飲む?」
空になったグラスと俺を交互に見て、メニューを差し出してくる。
「んー……」
あまり酒が得意ではない。
智久はわかっていて、それでも聞いてくる。
……今日はかなり機嫌がいいらしい。
「アルコールの少ないやつ、かな」
「もう少しくらい飲めるやろ?何がええ?」
ビアガーデンに誘ってきたのは智久からだった。
久しぶりのデートだからとか、暑かったから飲みたかったんやとか、何やらごち
ゃごちゃと言っていたが。
何か企んでるんじゃないだろうな?と思って最初は疑ったが、いざ来てみると平
日のせいか人気も少なくて、雰囲気もいい。
少しずつだがアルコールの摂取量は増えていった。
「あ、おねーさーん」
メニューを決めかねているうちに智久がホールスタッフを呼んだ。
明るい返事がして、すぐに若い女性が走ってくる。
珍しく愛想良く女性と話をして、注文を済ませていく。
「…………」
「何や?」
「智久、今日すごく機嫌いい?」
「何や孝明、やきもちやいてんの?」
「はぐらかすな!」
実際、ちょっとムッとしたのだが。
仏頂面とまではいかないが、普段の智久は愛想が悪い。
顔はいいのに愛想が悪いから、言い寄ってくる女の人は少ない。
のだが、今日は笑顔を振りまいている、ように見えてしょうがない。
「孝明と久しぶりのデートで、機嫌悪いわけないやんか」
すでに酔い始めている智久が、笑う。
嬉しそうに、心底嬉しそうに、笑う。
「で、お前はなにを不貞腐れてんの?」
運ばれてきたグリッシーニで人を指して、智久が笑い続ける。
「…………むっかつく!!」
ムカつく!
わかってるくせに、その余裕の態度がムカつく!!
「ほんま、かわいいなぁ孝明」
ケラケラと笑いながら、智久は齧りかけのグリッシーニを俺の口に押し込んだ。
「……それ食ったら帰ろか」
そう言ってジョッキに残ったビールを飲み干しにかかった智久に、俺はそれ以上
何も言えなくなってしまった。
「ごちそうさーん」
「あ、ちょっと待ってください」
会計を済ませ、出て行こうとする俺達を、レジの女性が引き止める。
何やらゴソゴソとビニールの袋を探っているのを見て、悪気はないのだが眉を顰
めて見ていた。
「花火、よかったら持ってってください」
「……いいの?」
何が出てくるのかと身構えていた俺は、拍子抜けしてしまった。
そして恐る恐る聞き返す。
「どうぞ。このまま残しておいても湿気っちゃうんで」
にっこりと微笑んだ女性は、何本かの手持ち花火を取り出して新しいビニール袋
に詰め、手渡してくれた。
というより、押し付けられた。
「ありがとうございました。またいらしてください」
と、極上の笑顔付きで送り出される。
「よかったやんか。花火。今年まだ一回もやってへんしな」
レジから離れた場所で、智久が煙草を咥えて待っていた。
こちらも極上の笑顔だった。
「で?花火で孝明の機嫌が直ったんか?」
「…………機嫌悪いわけじゃ……」
薄暗い明かりに照らされたビアガーデンの駐車場前で、花火を手に俯く。
機嫌が悪いわけじゃない。
智久が無闇に笑顔を振りまいているのが気に食わなかっだけだ。
……機嫌が悪いわけじゃない。
「孝明?」
黙り込んだ俺の顔を、笑いながら智久が覗き込んでくる。
顔を背ける。
智久に今の顔を見られたくない。
これは、この感情はすごくみっともなくて下らない嫉妬なのだから。
「……あっちの、ちょっと暗いとこで花火やろ」
それでも智久は笑いながら、ビニール袋ごと俺の手を引いて、離れた場所にあっ
たベンチまで引っ張ってきた。
袋の中から手持ち花火を取り出して、ライターで火を付ける。
赤色の光が俺の顔を照らした。
「……孝明」
緑色に変わった花火の色に照らされる、智久の顔は、やっぱり笑っていた。
「お前が嫉妬してくれる顔見て、その度に嬉しくなる俺はアホやと思う……?」
智久の言葉に、俺は何も言えなくなった。
呆れてしまって。
無言で頷いてやる。
花火が消えて、再び辺りは暗くなる。
また智久が花火を取り出して火を付けた。
「でもなぁ、ちょっと酔ってる時とやきもち焼いてくれてる時のお前の顔、すご
いクるから、しゃーないやんな?」
そう言ったかと思うと、手にしていた花火を取り上げられてしまった。
そしてそのまま智久の顔が近づいてくる。
笑ったままの唇が、ゆっくりと。
小さい音が漏れて離れる。
そしてもう一度。
「……っ、んぅ……」
火が付いたままの花火はアスファルトの上で燃え続ける。
ビアガーデンから花火が上がる音が聞こえる。
今見えたもの、聞こえるもの全てを、智久の抱きこまれた腕の中で感じる。
「……は、ぁ……っ」
くたりと力が抜けた体を智久のに預けた。
その背中に腕を回して、シャツを握り締める。
「孝明が可愛いから、顔が勝手に笑ってしまうんや」
いまだ笑い続ける智久を睨み付ける。
「んで、我慢できんくなるんや」
三度目のキスが降ってくる。
俺をそれを甘んじて受け止めた。
機嫌なんか悪くない。
嫉妬ももうどこかへ吹き飛んでいった。
智久の不気味なまでの愛想の良さの理由がわかっただけで、もうどうでもよかっ
た。
花火のおかげじゃない。
「ただ俺は、智久とキスがしたかっただけかもしれない……」
ポツリと呟くと、智久の体が離れてしまった。
そして、ニヤリと笑う。
「…………キスだけじゃ足りへんやろ」
「…………そりゃお前だろ」
お互いに、笑い合う。
もう一回だけ、触れるだけのキスをして俺達は離れた。
夏の風というには涼しすぎる風が、花火の香りを遠い場所に運んでいく。
秋の虫の声が微かに聞こえてきた。
どちらからともなく手をつないで、家へと歩き出す。
「…………夏も終わるなぁ…………」
「涼しくなっていいだろ」
「食欲の秋が来て忙しくなるやんか」
「う。さらに忙しくなるな……」
「……一緒に暮らさへんか?」
「…………考えとく。秋までに」
つないだ手を強く握り締めると、同じ強さで返ってきた。
それが妙に嬉しくて、俺達はまた笑った。
清香さんからいただいてしまいました!
ありがとうございました!!嬉しくて、思わず続きを・・!
(初コラボレーション!!清香さんから頂いたお話の続きを、智久視点で!
)
↓ ↓ ↓ ↓
「あ、そっちやない孝明!こっちや、こっち!」
高台にあったビアガーデンからの帰り道、誰も通りかからないのをいいことに、
握り合ったままだった孝明の手をグイッと引き寄せた
「えっ!?こっち・・ったって、そっちは山の中なんじゃ・・・」
「ええんや、こっちで。ほら!」
困惑顔の孝明の手を引いて、広い車道から脇道へと続く林道へ入り込んでいく
市街を見下ろす高台にあるビアガーデンだっただけに、一歩脇道にそれれば雑
木林だ
所々に思い出したようにある街灯以外、月明かりを頼るほかない薄暗い道にな
る
「・・・ちょっ、智久?一体どこへ行く気だよ?」
握り合っていた孝明の手に少し力がこもり、不安そうな声で問いかけてくる
「・・・なんや?怖いんか?」
「っ!だ、だれが!」
怒ったように言い放ちつつも、握られた手にこもった力が緩む気配がない
・・・・どうやら、図星だったらしい
思わず込み上げてきた笑みを必死で押さえ込み、俺は思い切り孝明の手を自分
の方へ引き寄せた
「う・・わっ!」
つんのめる様にして勢いよく胸の中へ飛び込んできた孝明が体勢を立て直す前
に、その肩に腕を廻した
廻して肩に置いた指先に力を込め、孝明が離れていく事を牽制する
「あ・・っぶねーな!急に引っ張るな!ってか、この手は何だ!?この手は〜
〜!?」
しっかりと肩を抱き寄せ、身体を密着させている俺を、孝明が上目使いに睨ん
でくる
だけど
密着した体から伝わる、ホッとした様に弛緩した、酒のせいでいつもより熱い
孝明の体
意地っ張りの孝明は、きっと決して自分から怖いなどと認めたりはしないはずで
孝明が意地を張って逃げを打つ前に、言ってやった
「あほ、俺が怖いんや。他に誰もいてへんのやし、明るい所に出るまでええやろ?」
「・・・・・お前な、そのニヤケ顔のどこが怖がってんだよ?」」
「ん?これが俺の怖がってる顔やねん」
「・・・・うそつけ!っていうか、マジでどこ行く気だよ?」
あきれたような返事を返しつつも、不安げな孝明がその体勢から逃げる事もな
く同じ歩調で歩いていく
まさに棚からぼた餅・・・!
こんな風に外で肩を抱いて歩けるなんて、それだけでもここに誘った甲斐があ
ったというものだ
「心配すんな。この辺はようヤンチャして走り廻とったとこなんや。いうたら
裏道やな」
俺のその言葉に、孝明が思い切り不審そうな眼差しを向けてくる
「・・・走り廻ってたって?」
「あー・・・うん、バイクやら車やら」
「・・・・なに?走り屋?暴走族?」
「そんなしょーもないことするかい。気の合う連れと遊んどっただけのことや」
「・・・・それって走り屋っていうんじゃないのか?」
「他人様にご迷惑はおかけしておりません〜〜」
おどけた様に大袈裟に肩をすくめて見せると
「ほんとかよ〜?」と言いながら、孝明が俺の腕の中でクスクス・・と笑う
思わず、肩に廻した腕に力を込めた
「・・・なに?」
不意に込められた力に、孝明が俺の顔を覗き込んでくる
「・・・あんまし可愛い顔すんな。押し倒したくなるやろ?」
「っ!?」
『・・ガツッ!』
「つっ!!」
鈍い音と同時に脇腹に受けた衝撃に、俺は思わずその場にうずくまった
遠慮の欠片もないエルボーをかました孝明が、俺の事など無視して歩いていく
「・・・孝明〜?一人で行くのはええけど、ここ、出るで?」
周囲は薄く射し込む月明かりと、消えかけて瞬く古ぼけた街灯・・うっそうと
茂った草むら・・
俺の言葉に、孝明の足がピタリ・・と止まった
そのあまりに素直な反応に、込み上げてきた笑いを耐えるのに肩が揺れる
笑っているのを気付かれないよう、うずくまったまま痛そうな振りをしている
俺の所に、孝明が少しムッとした顔つきで戻って来た
「・・・・いつまでも猿芝居してんじゃねーよ!ばか!」
あくまでも視線は合わさずに、孝明が俺に向かって手を差し出してくる
俺は迷わずその手を掴んで、立ち上がった
「・・・で?お前は一体、何を企んでるんだ?」
立ち上がった俺の顔を、悔しげな表情で上目遣いに孝明が睨みつけて、そう言
った
「・・・なんや、ばれてたんか」
掴んだ手を離すことなく握り締めたまま、俺はその企み目指して孝明を引っ張
って行った
「・・・ってことは、やっぱ企んでんのかよ・・・」
吐息と共に吐き出された、あきれたような孝明の声音
「まあまあ、夏の風物詩をもう一個忘れてるやろ?た・か・あ・き・君?」
「夏の風物詩・・・?」
「そ、ほら、ここの盆踊りがこの辺では一番最後のお祭りなんや!」
雑木林の脇道を抜けた途端、目の前に広がった提灯の光の群れ
その光の筋に沿って立ち並んだ、屋台の連なり
自家発電機の騒々しい音と、食欲をそそる香ばしい匂い
俺は孝明の手を引っ張って、その光の中に飛び込んでいった
「・・っ、おい、ちょ・・・智久、手・・・!」
人波の中に入り込んでも繋いだままだった手を、孝明が焦ったように振り解い
た
「先に手を伸ばしてきたんは孝明やのに・・・?」
怖がっていた事を暗に滲ませて、孝明の顔を覗き込んで言ってやったら
「っ、お前、絶対性格悪すぎ!超むかつく!・・・けど」
「・・・けど?」
ムッとしたように俺を見返していた孝明の顔が、ゆっくりと満面の笑みに変わ
っていく
「・・・けど、俺、こういうの・・けっこう好き・・だぜ?」
その「好き」が、俺の事なのか、それとも祭りのことなのか・・・?
悪戯好きなガキのように、どこか挑戦的に、ニヤリ・・と、孝明の口角が上が
る
その笑みに、俺もつられて同じ笑みを返した
「せやろ?ええぞ?俺みたいなの。今ならアフターケア付きでお買い得や!買
わへんか?」
「何がアフターケア付きだ!お前買うくらいなら、まずはリンゴ飴だ!」
「俺はリンゴ飴以下かよ?っつーか、お前、ほんとに甘いもの好きやな?」
「悪いかよ?悔しかったら智久も甘くなってみろっての!そしたら俺が買って
やってもいいぜ?」
意味深な言葉を吐いたかと思うと、孝明が本当にリンゴ飴の屋台の方へ駆け出
していった
「・・・甘くないのはどっちやねん」
思わず溜め息と共にそんな愚痴がこぼれでる
でも、まあ
嬉々とした表情を浮かべて戻ってきた孝明が
「次、どこ行く?」
と、本当に嬉しげな笑顔を見せてくれるのだから、これ以上望むべき事もない
「っしゃ!ほな次はやっぱ、祭り定番”ぼったくりたこ焼き”行こか!」
「ぼったくりって、分かってて買うのかよ?」
「あほぅ、分かってて買うんが祭りの醍醐味やで?」
祭りの中心部から、にぎやかな盆踊りの曲が聞こえ始める
騒がしい人込み
溢れる光と、みなぎる高揚感
俺と孝明は、過ぎ去る夏を惜しむかのように、一夜限りの夏の宴を堪能して家
路に着いた
(さてさて、その後の家に戻ってからの2人は・・(18禁です。ご注意を
!)孝明視点で)
「・・・それ、ほんまに全部喰う気か?」
家に戻って開口一番、あきれたような智久の声がそう聞いてきた
「・・・うるさいなーいいだろ?別に。好きなんだから」
「・・・好き・・ねぇ・・・」
妙に冷たい智久の視線の先にあるもの・・・
俺の手の中に在る、真っ白でふわふわな、大きな綿菓子
はっきり言って、大の大人がこんなもん嬉々として買うなんて・・!と思わな
かったわけじゃない
だから、視線の端に捕らえたその屋台を見つめていただけだったんだ
なのに
「なんや?あれがほしいんか?」
目ざとく俺の視線に気がついた智久が
「おばちゃん、それ一個ちょうだい」
と、俺の迷いも気恥ずかしさも知らぬげに、さっさとそれを買い込んでしまった
智久には笑えるほど不釣合いな、可愛らしいアニメのキャラ柄に詰められた、
その綿菓子を
・・・はっきりいって、嬉しかった
子供の頃なら躊躇なく「買って!」と言えたその綿菓子は
大人になった今では恥かしくて買える代物ではなく、いつも眺めているだけで
終わっていたから
しかも
家に帰る道すがら、智久はずっとその不釣合いな代物を持って帰って来てくれ
た
途中で乗った電車の中で、どんなに周りから奇異な目で見られていようとも
、
素知らぬ振りで
いくら俺が「持つ!」と言っても
「お前が持つと似合い過ぎて怖いやろ?」と、言って・・・
だから、家に帰るなり俺は無心に綿菓子を頬張っている・・という次第
だって
せっかく智久が俺のために買ってくれたのだ
残す気なんてサラサラなかった
「・・・しかし、ほんまに嬉しそうに喰いよるな、お前」
「・・・ほっとけ」
当たり前だ・・だって本当に嬉しかったのだから
それはもちろん、綿菓子が食べれた事もあったけれど
それよりなにより、智久が、俺のために買ってくれた・・その事が
「・・・はぁ、美味かった!ごちそうさま!」
キャラクター柄の大きな袋いっぱいに詰まっていた綿菓子を、俺はあっという
間に平らげた
何しろ量はあるように見えても、実際は口の中ですぐに溶けてしまう代物なのだから
「うわ・・・ほんまに全部一人で食いよった」
あきれ半分、感心半分・・と言った面持ちで、智久が俺を見つめている
「いいじゃん別に。お前、甘いもの嫌いなんだし」
「お前な、それでも普通は一口くらい勧めるのが礼儀・・いうもんやないか
?」
「・・・へ?なに?食べたかったのか?」
「・・・お前、マジで美味そうに食いよるからな」
「だったらもっと早く言えよ。もうなくなって・・・」
言いかけた俺の指を、智久が不意に掴んで持ち上げた
「・・・ええよ、ここにまだ残ってるし」
「は?残ってるって・・どこに・・・・っ!?」
いきなり加えられた刺激に、思わず息を呑んだ
智久が、綿菓子の溶けた飴でべたつく俺の指をいきなり口の中に含んだのだから
「っば・・!なにやって・・・」
引き抜こうとしたけれど、智久の両手で掴まれた俺の手はビクともしない
抗議の言葉と抗う力が、目の前のあまりに扇情的な光景と感じる刺激に失われ
ていく
智久の舌が、俺の指を一本一本丁寧に舐め上げる
口に含んで上下に扱く
一年前、機械で挟んでケガをして・・少し変形した、あの指先も
「・・・んっ」
思わず、声が漏れた
「あ、悪い・・痛かったか?」
不意に顔を上げ、心配そうに聞いてきた智久に、慌てて俯いて首を振る
確かにそこはケガのせいで少し引き攣っていて・・・
でもそれで逆に刺激に敏感になっていて、もの凄く、感じただなんて・・言え
るわけがない
「・・・ふう・・ん?」
顔は見えなかったけど、今一瞬、智久がもの凄くやに下がった顔つきになった
気がした
「あ・・・・っ」
そしてやっぱりそれは気のせいなどではなく、再び俺の指を咥え込んだ智久の
唇がケガの痕跡を重点的に扱き上げていく
全身に震えが走った
その行為が、どうしても自分の中心に与えられる愛撫と重なる
身体が勝手に熱くなっていく
ただ指を舐められてるだけなのに、こんな風になるなんて・・・!
「・・・孝明」
不意に艶めいた声が耳元に落とされたかと思うと
必死でそんな自分を叱咤しつつ俯いていた顔を、智久が無理やり上向けた
「・・・ここにも、ぎょうさん残ってるで?」
そう言って、俺の口の端をさっきまで指先をしゃぶっていた舌先で、ペロリと
舐める
目の前にある智久のニヤケ顔は、確実に俺が感じているのを知っている顔つき
で
何ともいえない気恥ずかしさで、ますます加速度的に体温が上がっていく
「・・・ほんまに、子供みたいな食い方しよってからに」
そう言って笑う智久は、どうやったらそこまで甘い顔になれるんだ・・?
と思うくらい、甘くてとろけそうな顔つきになっている
こいつは・・・
自分が甘くないとか思っているみたいだけど、それはとんでもない間違いだ
綿菓子の事だってそう
智久は、俺に対してとことん甘い
ビアガーデンや祭りの事だって、俺に夏の醍醐味を味あわせたかったからだろ
うし
俺を、とことん甘やかしてくれる
「悪かったな・・!どーせ俺は子供・・・」
思わず溢れそうになった、自分を卑下する言葉も、重なってきた智久の唇で塞
がれてしまう
入り込んできた智久の舌先に残る甘さと、俺の口内に残る甘さが混じり合い
、
溶け合っていく
綿菓子やリンゴ飴の甘さなんて比較にならないくらいの、甘露な味
「孝明・・・、孝明・・・」
角度を変え、何度も重なってくる智久の唇が、これ以上ないほどの甘さを滴ら
せて、俺を呼ぶ
「・・・ん、智久・・」
「・・・あほ、んな甘い声で呼ぶな。理性が吹っ飛ぶ」
「ど・・っちが・・!」
俺なんかより何倍も甘い声音で俺を呼んでるくせに・・・!
こっちはとっくに半分以上、タガが外れかかってるって言うのに
「お買い得品、買う気になったか?」
ペロリと唇を舐めた智久が、勝ち誇ったような顔つきで聞く
何だかあまりに余裕なその顔つきが、無性に憎らしい
「・・・さっき、綿菓子おごってもらったからその分で」
「・・・俺の価値は綿菓子と同じかい?」
「・・・綿菓子じゃ不服なのかよ?」
挑むように見つめあった智久の瞳がゆっくりと細まっていく
「ご使用後の返品、及び苦情は受け付けられへんで?」
「バ〜カ、そのためにアフターケア付きなんだろ?」
互いに顔を見合わせて、笑みが浮かぶ
「・・・孝明」
落とされた、痺れるような甘さの声音
重なり合い、溶け合う体温
焦らすようにゆっくりと全身を這う智久の唇と指先が、俺の中から甘い疼きを
引き出していく
「んっ・・・ふ」
堪えきれずに漏れる自分の吐息が甘いのも
さっきの仕返しとばかりに咥え込んだ智久の指先が、こんなに甘いのも
全部、智久のせいだ
俺が無心にしゃぶっていた智久の指が、いやらしい糸を引いて引き剥がされる
「・・・んっ」
取り上げられたおもちゃを惜しんで、舌先が離れていく指を追う
「そんな顔すんな・・挿れるまえにイキそうになる」
言葉と同時に俺の唾液で濡れた指先が、驚くほどすんなりと内部に差し入れら
れる
「・・・っ!んんっ、」
漏れたはずの嬌声は、口の中に差し入れられた智久のもう片方の指先で声にな
らず
思わず仰け反った胸元の突起を甘噛みされて、彷徨う手が智久の髪を掻き回す
内部を探る指が抜き差しされてポイントを刺激するたび、勝手に身体が跳ね上
がる
智久の手に顎を捕らえられ、咥えさせられた指が息苦しくて歯を立てる
・・・
それと同時に口の中から指が引き抜かれ、ようやく自由になった口からは甘い
喘ぎ声しかでない
「・・・孝明」
苦しくて切なくて、どんなものより甘く身体を疼かせる、智久の許しを請う声
返事の代わりに下肢を絡めると、埋められていた指先が引き抜かれ、膝を抱え
上げられる
躊躇うことなく割り入れられた智久の腰が、性急に押し入ってくる
「ーーーーーーっ」
仰け反って浮きあがる腰が、無意識に揺らめいて智久の熱さを受け入れていく
「・・と・・もひさ・・!」
熱に浮かされて溶け出してしまいそうな感覚に、抱きしめる何かを求めて腕を
伸ばす
その求めに応じて屈みこんできた智久の背に腕を回すと、ゆっくりと智久が動
き始める
「ぁ、は・・あ・・っ」
動きにあわせて漏れる喘ぎ声が、重なる智久の唇で掻き消される
いまだ互いに口の中に残る甘さが、一層その甘みを増していく
激しさを増す下肢の動きにあわせて、抑え切れない嬌声が、重なる唇の間から
甘い甘露と共に零れでる
溶け出しそうな互いの熱さと
痺れるような甘さが身体中を駆け巡っていった
俺を甘いもの好きにさせたのは、智久だからな・・・!
そんな事を確信した、忘れられないひと夏の思い出だった
=終=
お気に召しましたら、パチッとお願い致します。
清香さんに頂いた初のテキスト!!
二人の違う一面に出会えた感じです!
ありがとうございました!!
清香さんのサイトにはこちらから!