未来予想図
=あの日、秘密の場所で=
〜流・編〜
「おにーちゃん!あれ、取って!」
うららかな午後の公園
ジョギングの途中に立ち寄ってストレッチしていた流が振り返る
「・・・俺?」
「うん!おにーちゃん、木登りできそうだから!」
「は?木登り・・・?」
スポーツウェア姿の流を運動神経が良い・・と見て取ったのだろう
小学生くらいの二人組みの女の子が
背の高い大きな常緑樹を指差して、そう言った
見れば
手に手にバトミントンのラケットを持っている
一目で状況を把握した流が、女の子の目線に屈みこんだ
「羽根・・か、よし!任せろ!」
ニッコリと笑った流に、たちまち女の子達の頬がバラ色に染まる
どうやら
流の、その容姿の良さにも選抜理由があったらしい
流が軽い身のこなしで危なげなく木の枝伝いに登って行く
ちょうど半分ほど登った所で、枝の先に羽根が引っかかっていた
「よ・・・っと、ほらよ!もっと広い所でやるんだぞ!」
羽根を取った流が、下に居た女の子達に向かって放り投げる
「うん!ありがとう!!」
声を揃えて礼を言うと、公園の中央付近に向かって駆け出していった
それを笑顔で見送った流が、木の枝越しに降り注ぐ暖かな木洩れ日に目を細める
さて、降りるか・・・と枝に手を伸ばした瞬間
「っ痛!」
何かの拍子に折れたのだろう・・・
突き出た枝の切っ先が流の指先を傷つけ、一筋の赤い滴りが伝っていく
反射的に指先を口に含んだ流が、フ・・・ッとその動きを止めた
たった今口に含んだ、唾液で濡れ光る指先を目の前に掲げる
「・・・・・そういや、あの時あいつと」
呟いた流の指先から伝った血が、ポタリ・・・と乾いた木の幹に染み込んでいった
あれは
初めてあいつと・・・
ハサン王子と出会った・・・あの夏休み
巻き添えを食った
あの、誘拐事件
その事件解決の、後、の出来事
***********
「北斗!」
宮殿の中庭でお茶を飲んでいた北斗に
顔に貼られた絆創膏と肩に巻かれた包帯が痛々しい流が駆け寄ってきた
「・・・流、ケガの調子はどう?」
開口一番、北斗が見惚れるような笑顔で聞く
誘拐事件のときにハサンを庇って受けた傷は、幸い軽いもので済んでいた
「こんなのケガの内に入んないんだって!イチイチ大袈裟なんだよ、あの俺様王子は!」
憤慨したように一息に言い放った流が、勢い込んで言葉を続ける
「そんな事より!ね、板と釘とカナヅチってない?」
「はい?カナヅチ!?そんなものどうするの?」
流の突拍子もない言葉に、北斗が目を瞬いて驚いている
一瞬、逡巡の顔つきになった流だったが
意を決したように、北斗の耳元に何事か囁いた
「・・・・・・・え?植物園に?」
囁かれたその内容に、北斗が更に驚いた表情になって流を見つめ返す
「うん・・・ダメ、かな?」
北斗の困惑と驚きの入り混じった表情に、流の表情が不安そうに揺れる
「・・・理由を聞いてもいいかな?」
立ったままだった流にイスを勧め、北斗が笑顔で問いかけた
「だ・・って、さ。あいつ、いつも誰かが側に居るだろ?護衛とか召使いとか・・・
俺だったら、息が詰まっちまう
たまにはさ、自分一人だけになりたい時だってあるだろ?
あいつには、そういう場所がないと思うんだ・・・だから・・・」
俯き加減に・・・ほんのり耳朶を染めつつ言う流の、印象的な赤い髪を北斗が撫で付けた
「・・・ここだけの話、流はハサン王子が好きなのかな?」
その問いに、一気に流の顔が真っ赤に変わる
「そ、そんなわけねーだろ!!た、ただ、俺はあいつが・・・っ」
「あいつが・・・?」
ニッコリと微笑んで先を聞く北斗を、流が恨めしそうに上目遣いに見上げてくる
「・・・あいつが・・・王子でなくていい場所を作ってやりたい・・な・・て」
「・・・流」
北斗が密かにため息を付いた
事件以来、流を自分の側から離そうとしないハサンのせいで
流はハサンの周囲の者達から、あからさまに身分不相応な・・という態度を取られていた
北斗の息子である・・という特別待遇ではあっても
そこはやはり
王子と、ただの子供
その上、流はハサンに対して一切敬語を使わず、王子という扱い方もしなかった
その態度と言動は、周囲の大人達からすれば許しがたいものだ
最初はそんな嫌がらせもあって、不満タラタラ・・な流だったが
毎日ハサンの日常を間近に見ている内に、そんな風に思うようになったらしい
確かに
ハサンの日常は毎日分刻みの勉強で、遊ぶ暇もないと言って過言ではない
常に王子としての態度と物言い、利発さを強いられる
王子でないハサンを求める者は、誰一人としていない
だから
「・・・今はさ、俺、あいつの側に居てやれるけど・・・すぐ、居なくなっちまうだろ?
だから居なくなる代わりに、置き土産・・・ッつー感じ?
植物園のあの木の上、下から見えないし、すげー気持ちよく昼寝できるんだ・・・!」
今はまだ
自分しか知らない秘密の場所
その場所を
ハサンと共通の、二人だけの秘密の場所にしたい
そんな流の想いが、その赤い瞳を更にキラキラと輝かせている
まだ自分自身でも気が付いていないのかもしれないが
流にとっても
ハサンは既に特別な、唯一無二の存在になってしまったのだろう
ふふ・・・と笑った北斗が、もう一度流の髪を撫で付ける
「凄く、いい案だ。国王には許可を貰っておくから、一緒に作ろうか?」
そう言った北斗を、流が強い意志のこもった眼差しで見つめ返す
「ううん、北斗、俺一人で作りたい。一人でやんなきゃ作る意味がないような気がするんだ」
「流・・・!」
たった一人との出会い
ほんの僅かな、供に過ごした時間
それだけで
言葉を尽くしても分からない事を、得る事だってある
「・・・分かった。頑張るんだよ?」
「うんっ!ありがと!北斗・・・!」
叫んだ流の顔には、今まで見た事がないくらい
嬉々とした笑顔が浮かんでいた
**********
「待て、流!一体どこへ行く気だ!?俺はまだ授業が・・・!」
休憩時間に部屋に戻ってきたハサンを、流が有無を言わさずに連れ出した
「いいから!来いよ!授業なんてサボっちまえ!!」
「な・・・っ!?そういうわけには・・・」
引かれた腕を引き戻そうとするハサンに、流がその身体を柱の影に押し付けた
「だったら、王子なんて、やめちまえ!!」
急に真剣な表情で言い放った流に、ハサンが目を見張る
「な・・・?何を言って・・・?流?」
「俺と、王子と、どっちを取るんだよ!?」
「る・・い・・?」
一体どうしたのか?と、困惑顔のハサンに、不意に流が掴んでいたその両肩を突き放す
「・・・来たくねーなら来なくていいよ。授業にでもなんにでも、行っちまえ」
「る・・・っ」
その名前を呼ぼうとしたハサンから顔を背けた流が、振り返りもしないで目的の場所に歩いていく
「・・・っ、ま、待て!俺の側から離れるなと言っただろう!流!!」
叫んだハサンが、慌てて流の背中を追う
振り返ろうとしないその背中を、ただ黙ってついて行くと
今まであまりハサンが来たことのない、植物園の大きな常緑樹の下で流が止まった
「・・・なんなんだ?こんな所に連れてきて?」
いつもと違う雰囲気の流に、ハサンもいつもの俺様王子振りが発揮できずにいる
「木登りくらい、出来るよな?」
不意に振り返った流の口元が、ニヤリ・・・と上がる
「っ!?で、出来るに決まってるだろう!」
「じゃ、行くぜ」
ふふん・・・と鼻で笑った流が、あっという間に常緑樹の見事な枝振りの上に登って行ってしまう
「・・・っの!」
はっきり言って
ハサンは今までこれほど大きな木には登った事がない
気合いを入れた掛け声と供にゆっくりと、用心深くよじ登り始める
流の倍の時間をかけて登った先に
流の笑顔と差し伸べられた手が待っていた
「来いよ、ハサン!」
「っ、」
一瞬、何か言い返そうとしたハサンだったが、その笑顔に言葉を失くす
そして
差し伸べられた手を取って引き上げられた、その目の前に
しっかりとした組木で作られた、居心地の良さそうな場が設えてあった
「・・・・る・・い?ここは?いったい・・・?」
「お前の秘密の居場所。いいぜ、ここ。昼寝するには絶好の場所だ」
ハサンの唖然とした表情に満足したのか、流の顔に満面の笑みが浮かんでいる
「秘密の・・居場所?」
「そ!ここは俺とお前しか知ってる奴は居ないから、誰も来ない
ここなら、お前を王子扱いする奴は誰も居ないぜ?」
太い幹と幹の間に設えられた、十分横になって眠れるスペースに
流とハサンが向かい合わせに座っている
その限られた空間で
目の前に
今まで見せてくれた事のなかった笑みを浮べた、流が居る
思わず流ににじり寄ろうとしたハサンを、不意に流が手を伸ばして遮った
「あっ!ちょい待った!そこ、釘が・・・っ!!」
言うと同時にハサンの指先を庇った流の指先に、飛び出ていた釘の先が突き刺さっていた
「っ!?流!!」
慌てて引こうとした流のその指を、ハサンが掴んで引き寄せる
「・・・お前!?どうしたんだ!?この指!?」
見れば
流の手には大小の切り傷やら打ち身やら・・・
尋常ではないキズが刻まれていた
「わ、バカ!見るな!たいしたことねーって!ちょっと慣れない事したから・・・」
その言葉に、ハサンがハッと流を見つめた
「まさか・・・これ、お前が!?」
そういえば
最近どこか挙動不審だった
ハサンが部屋にいる間は側に居るのだが
ハサンが居なくなると
どうやらどこかへ行っている気配があった
以前からジッとしている事に不満タラタラだったから
どこかへ適当に気晴らしに行っているのだろう・・・ぐらいに思っていた
とりあえず、自分が部屋に居る時には側に居たので
ハサンも特にそれをヤメロとは言わなかった
まさか
それが、こんな場所を作るためだったとは・・・!
掴んだ流の指先から滴り落ちた血が、真新しい木肌の上に染みを描く
「ちょ、放せよ!血が・・・っ!」
これ以上汚してなるものか・・・!
とばかりに流が引き戻そうとした、その指先を、ハサンが不意に口に含んだ
「っ!?・・・いっつ・・・っバカ、やめろ・・・っ」
ハサンが血のりを舌先で丁寧に舐め取って、更に止血するように傷口を吸い上げる
その指をギュと摘んで止血させ、自分の衣服の端を引き裂いたハサンが
流の指先に巻きつけて処置を施した
そして
「こ・・の、流のオオバカ者!!こんなキズだらけになってどうする気だ!?」
真剣に怒った顔つきになったハサンが、流に詰め寄った
「バカってなんだよ!?一生懸命作ったんだぞ!?気に入らないなら降りやがれ!」
「誰が気に入らないなどと言った!?」
流の気勢を削ぐほどの大声で言ったハサンが、今にも押し倒す勢いで間近に言い募る
「どうしてこんなことをする!?お前は俺が嫌いなんだろう!?」
「ああ!嫌いだ!王子なんてやってるお前がな!」
負けじと言い返した流が、ハサンと睨みあう
「俺は王子だ!やってるわけじゃない!」
「分かってるよそんな事!だから嫌いだっつってんだ!」
いつもの堂々巡りの言い争い
お互いに、まだ自分の中で渦巻く感情を表現する術を知らない子供同士
相手の心の内を見透かす余裕などない
ましてや
後、ほんの数日で、二人は別れがやってくる事を承知している
互いにムッとした表情で至近距離で睨み合っていたハサンが
フ・・・ッと流と距離を置いた
「・・・流、お前は将来何になる?」
「は・・・?なんだよ急に?俺はもちろん、一流のサッカー選手だ!お前は?」
流が拳を固めてその決意の強さを露わにする
「俺は王子だ。国王になる」
簡潔で澱みなく・・・ハサンの答えには迷いも感情も無い
その答えに、一瞬、流が眉間にシワを刻む
「他には?」
思わず問いかけた流に、今度はハサンが眉間にシワを刻んだ
「他・・・?他などありえない。そんな事考えた事もない」
「じゃ、今考えろ!」
言い放たれた言葉に、ハサンがしばし逡巡する
が
「・・・・・ない。それに、考えるだけ無駄だ」
確かに
ハサンが王子である以上、国王になる事は絶対だ
それ以外になりたい物を考えた所で、所詮は無駄な行為に他ならない
「・・・・・つまんねーやつ」
落胆と、どうにもならない現実
ハサンを前にすると、いつも歯噛みしたくなるような感情が先立って
流の吐きだす言葉がきつくなる
いつもなら
流のその言葉に声を荒げて突っかかるハサンなのに
今日は、真っ直ぐに流を見つめ返した
「では、流は?サッカー選手になって、それからどうする?」
「へ?それから・・・?」
思わぬ問いかけに、流が目を瞬いてハサンを見つめ返す
「そうだ。いつまでも現役でいられないのがスポーツ選手の宿命だ
俺の事をつまらない・・と言うのなら、当然その先だって考えているんだろう?」
負けん気も混じったその言葉に、流がムゥ・・ッと考え込む
「・・・・そう・・だな、どっか・・・あったかいトコで、小さい子供達に
のんびりサッカー教えられたらいい・・かな」
「それだけ?」
意外そうにハサンが目を見開く
「悪いかよ?俺はそれで十分なんだよ!
っつか、なりたい物じゃなく見てみたい・・・っていう物なら、あるけど」
「見てみたい物?なんだ?それは?」
「あ?絶対見れないもんだよ。気にすんな」
そんな風に言われたら、気になるのが人の常・・・だ
「気になる、言え!」
「・・・てめ、その命令口調何とかしろよ。ま、だから絶対見れねぇんだけど」
ボリボリ・・・と頭をかきながら、流が嘆息する
「いいから!言え!!」
「・・・どっかの俺様王子が、王子じゃなくなったトコ」
見たいもの・・・というより、願いかもしれない
そんな事を思いつつ
どうせ絶対に叶わないんだから、いいか・・・と
流が気安くそんな言葉を口にする
「っ!?」
「・・・な?絶対見れないだろ?」
驚いた表情になったハサンをからかうように、流が楽しげに言う
「・・・流はそれが見たいのか?」
からかったはずが
至極真面目な表情でそう聞いたハサンに、流が「え?」と目を見張った
「あ・・・まあ、その・・・ちょっと・・・な」
「そうか、分かった」
「は?分かった?って、なんだ?それ?」
「気にするな」
今度はハサンが、からかうように楽しげに言う
「・・・?」
小首を傾げた流から、頭上の木洩れ日にハサンが視線を向ける
「・・・本当に気持ちのいい場所だな」
「だろ?昼寝するには最高の場所だぜ?」
流の視線に促され、ハサンが設えられた木組みの上にゴロリ・・と横になる
木の枝を揺らす心地良い風
木洩れ日が彩る陽射しの欠片
そして、なにより
その木洩れ日をバックに、笑う、流の笑顔
印象的な赤い髪に陽射しが落ち、様々な色合いに変化する
見飽きる事のない輝き
不意に
木の下の方から、ハサンを呼ぶ侍従たちの慌しい声が聞こえてきた
その声に、二人が慌てて身を寄せ合って、ソッと下の様子を伺う
枝の間から垣間見えた侍従たちに、ハサンと流の姿は見えていない
ひとしきりハサンの名前を呼んで右往左往していたが、
やがて・・・居ない、と分かって違う場所へと移動していった
どちらから・・・というわけでもなく顔を見合わせた二人が
さも可笑しそうに声を潜めて笑い合う
「・・・な?見つかんなかっただろ?
これから一人になりたい時はここを使えよ?
たまには息抜きだって必要だぜ?」
「・・・流」
間近にあったハサンの瞳に見据えられ、流が慌てて視線を外す
「・・・っ、ま、お前には必要ないかもしれないけどな」
ハサンの目の前にある流の耳朶が、ほんのり色づいている
それに目を細めたハサンが、不意に流の手を取って言った
「流、知っているか?恩義には恩義を持って報いるのがこの国の教義だ」
「は・・い?べ、別に恩義ってほどのもんじゃ・・・」
「この事だけじゃない、お前は既に一度俺の命を救っている」
「っ、あ、あれは、成り行き・・ってやつで・・・!」
なんだかんだと言い訳しようとする流の両手を取ったハサンが
その手に向かって身を屈め、紳士のようなキスを落とす
「っ!?わっ!!な、なにす・・・!!」
慌てて引き抜こうとした流の手を、ハサンがしっかりと掴んで微動だにしない
身を屈め、流の手の甲に唇を寄せたまま、ハサンが自国の言葉で言葉を紡ぐ
「命には命をもって報いるのが同等
救われた者も救った者も互いにその責を負う
お前の望みは俺の望み
俺はお前の物であり、そして、お前は俺の物だ」
「お、おい!お前、今なんて言ったんだ!?」
アラビア語にはまだ不慣れな流が
ハサンの言った言葉の意味がわからなくて、言い募る
「お前の望む未来が訪れるように祈っただけだ」
「俺の未来?サッカー選手か?」
「そうだ。そしてその先も・・・」
ニッコリと笑ったハサンの瞳が、意味深な輝きで流を見つめていた
*********
「・・・その先も、か」
あの時のハサンの表情と言葉を思い出した流の口元が、わずかに緩む
なんどか滴り落ちた指先の血は、いつの間にか止まっていた
「あれ、本当はなんて言ったんだろうな?ハサンの奴
ま、どーせ、ろくでもないことなんだろうけど」
木の枝の上で大きく伸びをした流が、フウ・・ッと息を吐き出す
「サッカー選手になるっていうのは叶ったよなぁ・・・この先・・・っか」
呟きながら、流がヒョイッと高い木の上から地面に降り立った
肩より長く伸びた赤い髪を、流が無造作にかき上げる
その印象的な髪の色に、公園内に居た数人が振り返った
「・・・おい、あれって・・・?」
「え・・・?まさか、ルイ・アサクラ!?」
「レッド・シューティング・スター(赤い流れ星)!?本物!?」
その視線に気が付いた流が、慌ててフードでその髪を隠し
陽射し避けの大き目のバイザーをかける
「やべ・・・っ」
駆け出した流を、数人が指差して騒ぎ、追いかけ始めた
だが
「レッド・シューティング・スター」の異名をとる
流の足の速さに追いつけるものが居るはずもなく
誰にも捕まることなく滞在先のホテルに戻った流が、フードとバイザーを取り払う
明るい陽射しが降り注ぐテラスへ続くドアは開け放たれ
白いカーテンが緩やかな風に舞っている
そのテラスに置かれた横長のソファーの端から
ブロンズのような輝きを放つ、伸びやかな腕が覗いていた
その指には、大振りな黄金の指輪が一つ、輝いている
フワリ・・・と舞うカーテンをよけ、流がテラスのソファーに近付いていく
「・・・おい、起きろよ。昼寝の時間は終わりだろ?」
いつか訪れる・・・未来予想図へと
=終わり=
お気に召しましたら、パチッとお願い致します。