飼い犬







ACT 13











「・・・・よう、久しぶりだなぁ?」

病院を一人で出て、5分と経ってない


なのに


聞き覚えのある声が、背中越しに聞こえてきた

嘘であって欲しい・・・そう思っていた淡い希望が完全に打ち砕かれた

その声は、俺をボコッた奴の一人・・・だったから


でも逆に、踏ん切りがついた
俺は、もう、真柴の側に居られない


「・・・・俺を探してたんだろ?どうすりゃカタがつくわけ?」


自然に浮かんだ・・・自虐的な薄い笑み
自分のものとも思えない、冷え切った声音


「・・・へっ、いい度胸だ。来な」


俺は躊躇う事無く、そいつの後を追った












「へぇ・・・お前が噂の希少動物?」


薄暗い、どこかの怪しげなクラブ
その一番奥のソファーに座っていた男・・・田島が俺を見た途端、そう言った

オールバックに撫で付けられた髪
黒いサングラス
神経質そうに尖った顎


一見して、ヤバそうだ・・・って分かる風貌だ


そいつが人を小バカにしたような笑みを浮かべ、その尖った顎でこっちへ来いって言う仕草を取る


「そら、お呼びだぜ・・!」


俺をここまで連れてきた男が、動かない俺の背をドンッと押した
つんのめるようにして田島の前に転がって、髪を引っ張り上げられる


「珍しい色だな。地毛なんだって?」

「・・・・悪いのかよ?!」


俺は掴み上げられた髪をそのままに、すぐ横にあったテーブルの上のグラスを投げつけようとした・・・・けど

同時に、思い切り田島に髪を引っ張られて、そのテーブルの上にあったグラスや酒瓶と一緒になぎ倒されて、押さえつけられる


「噂どおりの気の強さだなぁ」


髪を掴んだまま俺の身体をうつ伏せにテーブルの上に押さえ込んでいた田島が、グイッと髪ごと俺の顔を捻じ曲げて上向かせたかと思うと、不意にゾッとするような笑い声を上げた


「へ・・ぇ?こりゃあいい」


続いて聞こえた田島の声が、何か面白いオモチャでも見つけたような色を滲ませる

次の瞬間

俺のシャツの襟首にゾッとするほど冷たい田島の指先が差し込まれ、力任せに引っ張られた
テーブルの上に押し付けられていたシャツのボタンが勢い良くはじけ飛んで、うなじから肩口にかけて素肌を曝された

一瞬、田島が何をしたいんだか分からなかった

でも

グイッと更に顔を横向けに捻じ曲げられ、その首筋に田島の冷たい指先が這った瞬間

俺は、田島が何を見つけたのか理解した


そこにあるのは、真柴がつけた飼い犬の印・・・!


何度も何度も、痕が消えないように痛いくらいに吸い上げられて、痣のようにさえなってしまった印

そこ以外にも、多分、そこかしこに真柴がつけた痕が・・・


「真柴のガキがお前に目をつけてたってのは、こういう意味でか・・・!たいした色モンだったわけだ、あのクソガキ」


俺は一瞬耳を疑った
今、こいつ、「真柴のガキが目を付けてた」って言った
なに言ってんだ?こいつ!?
それって、逆だろ!?


「・・っ、ふざけんな!俺に目をつけてたのは、お前らの方だろ!俺がこうして来たんだから、もう真柴とは関係ないはずだ!」

「は?てめぇこそなに言ってんだ?先に真柴のガキが珍しい毛色のお前に目ェつけてたんだよ。
あの澄ましたガキの面が気に入らなくてなぁ・・・気に入ったオモチャを壊された顔を見てみたかったんだが、情けねぇ事に伸されて帰ってきやがって・・・!
ほんとに気にいらねぇクソガキだぜ!」

「っ!?」



・・・・・・・なに、それ!?
      じゃ、俺がこいつらにボコられたのも
      真柴に目を付けられてたから・・・!?      



俺の表情に驚きの色を見て取ったんだろう
田島がまた、如何にも可笑しそうに笑い声を上げた


「なんだ・・・知らなかったのか?可哀相になぁ、あのガキに気に入られなきゃ、お前もこんな事にならなかったのによ。
恨むんなら真柴のガキを恨むんだな。
とりあえず、そんな色っぽいもん見せ付けられて・・・黙って見過ごすバカはいねぇしな」


そう言った田島が「おい!」と、店の中に居る連中に向かって声をかけた


「この中に男に突っ込んでみたい奴、いるか!?女に突っ込むより何倍も良いっていうぜ?」

「な・・・っ!?」


俺が上げた驚愕の声を掻き消すくらい、店の中から歓声が上がった


「マジっすか?田島さん?」
「ヒューーッ!一回やってみてーと思ってたんですよ!」
「確かに良いぜ!女のと違って締め付け度がたまんねー」


そんな声が次々あがる

背筋がゾッとした

店の中に居るのは、どう見ても田島組の組員ばかりで
そのほとんどがヤバイクスリでもやってるんだろう・・・

その目も表情も

普通じゃない


「じょ、冗談じゃ・・・っ!!」


叫んだ俺は田島の腕を撥ね退けて逃げようとしたけど
俺が居たその場所は店の一番奥で

駆け出す間もなくあちこちから伸びてきた手に足に
捕らえられ転がされて
あっという間に服を剥ぎ取られて全裸にされた

一体何人で押さえつけられてるのか・・・

頭も肩も床に押さえつけられてビクともしない


「おらっ、尻、もっと上げさせろ!」


そんな声が聞こえたと思ったら、グイッと不自然だと思えるほどの格好で尻だけを持ち上げられた



・・・・・・なんだ?これ?



犬だとか
動物だとか


そんな生易しい扱いじゃない
羞恥とか屈辱とか
そんな感情さえも浮かんでこない


ただ浮かんだのは





明確な、殺意





ここに居る全員、





絶対、ぶっ殺してやる





心の底から、そう、思った




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