飼い犬










ACT 15









気がついたら

薄暗い部屋の中だった

部屋・・・っていうより、どこかの廃虚跡・・・?

薄っすらと日の差し込む窓を這う蔦の葉の影
ツン・・と鼻を突くすえた匂い
所々剥げ落ちた・・・むき出しのコンクリート壁



・・・・・・・・ここ、どこ・・・だっけ?



頭がボウ・・・ッとしてはっきりしない

自分がどこにいるんだか
何でこんなに全身が鉛のように重いのか

思い出せない
考えようとする気力さえ、ない

長時間同じ体勢でいたんだろうか?
横向きになって、下になっていた肩が痛くて
身じろごうとしたら

「ガチャ・・・」

首の辺りに硬い、妙な違和感と
硬質な金属みたいな、音


「え・・・・?」


指一本でさえ動かすのがやっと・・・の中、俺は何故だか軋む腕を何とか動かして、違和感のある首に触れた

しなやかな革の感触が指先に当たり、次に硬く冷たい金属に当たる



・・・・・・・・これ・・・って!?



思わず指先でその形状とそこから繋がる硬質な金属を辿る

それは


動物を繋ぐのに使う首輪と、鎖


その辿る指先から滲み込んで来る冷たさに
ハッと思い出した首輪の場所にある・・・飼い犬の印

心臓がドクン・・ッと鳴った

一気に鼓動が増し、苦しいくらいに心臓が脈打ち始める

フラッシュバックする、身体に受け入れた快感
のしかかる幾つもの身体

一人のはずなのに

腰を足を・・・掴むたくさんの手
後からも前からも突き込まれ、注がれ続けた・・・体液


ありえない・・・たくさんの真柴


「・・・・・・あ、」

ビクビク・・ッと全身が痙攣して、掛けられていたらしきボロ布みたいなった、シャツだったらしきモノがずり落ちた

視界に映った・・・一糸纏わぬ生々しいほどに白い、自分の身体
そこかしこに乾いて張り付いた・・・精液の跡

軋む身体
熱を持って腫れているかのように・・・いまだ何かが突き込まれているかのような・・・後孔

口の中に残る・・・青臭い残滓のなごり


激しく脈打ち続ける心臓が苦しくて
身体を巡る血の音がうるさくて


何も考えられない

考えたくない









「・・・へえ、目を覚ましたか。ちょうどいいや」

不意に

そんな声が頭上から注がれた

ギシリ・・・ッと硬いベッドのスプリングが軋む音
簡素で安っぽいパイプベッドの上・・・だったらしきそこに腰掛けた男


・・・田島!


「おら、見てみろよ希少動物。珍しい生き物が喘ぐ様はたまらねぇな」

グイッと、田島が俺の髪を掴み上げて顔を上向ける
それと同時に田島が持っていたリモコンらしきもの操作して、向かいの壁際に置いてあった壊れかけのようなテレビの電源を入れた

途端

映し出された、ブルーグレイの髪

四つん這いになり、後から、前から、代わる代わる男達に突っ込まれ、犯されている・・・俺の姿


「っ!?」


一瞬、ドクドクと脈打っていた心臓が、止まった

無機質な四角い箱の中で

振り乱したブルーグレイの髪を男達に掴まれて
口の中に突き込まれた肉棒にしゃぶりつき
後から突き上げられる快感に喘ぎ
自ら腰を振って喜悦の声を上げる


『りょ・・・すけっ、も・・っと、リョースケ・・ェ・ッ』


壊れたレコードのように、呼び続けているその名前

湧き上がる怒りと羞恥で頭の中が真っ白になった


「まさに犬だなぁ?自分の飼い犬が他の男に突っ込まれて良がってる様を見てる真柴のガキの顔が目に浮かぶぜ!」


ククク・・・ッと、田島が肩を揺らして可笑しくてたまらない・・・という笑い声を上げる



・・・・・・これを!?これを・・・真柴が・・・見た!?



一気に熱かった身体が冷水を浴びたみたいに冷たくなったかと思うと、頭の中が沸騰したみたいに熱くなった



・・・・・・こいつ・・っ!こいつ!!
     こいつだけは絶対に許さない!!
     絶対、殺してやる!!!



反射的に身体が動いて、目の前に居た田島に噛み付いてやろうとした・・・けど

「ガチャンッ!!」

という金属音と供に首輪に繋がれていた鎖を引っ張られ、ベッドの上に引き倒された

ふわり・・・と空に浮いたボロボロのシャツが、田島の足元に落ちて、グシャリ・・・ッと踏みつけられて、ただのボロギレへと変化する


「似合いだろ?その首輪。なぁ、いい加減自覚しろよ、てめぇはもう、俺の飼い犬なんだよ。そういう癖の悪い犬は、しっかりと躾け直さないとなぁ?」


パイプベッドのパイプに繋がれた鎖で俺の首を締め上げながら、田島が再び俺の髪を掴み上げた


「・・・ほんと、良い身体してるよなぁ。良い具合だったぜ?お前のアナル。このビデオも良く売れてな、客まで付いて来たんだぜ?棚からぼた餅とはこのことだ・・・」


その田島の言葉に、俺は本気で死にたくなった


こいつも・・・田島も、俺はあんな風に腰を振って・・・
俺の身体の中に、こいつのモノを・・・っ
涼介の名前を呼びながら・・・!


涙が出そうになって、必死でそれを呑み込んだ

こいつの前で泣きたくない
涙で潤んだ目なんて、絶対、見られたくない!!

思わず舌を噛み切ってやりたくなった俺の考えを見透かしたように、田島が顎を捕らえて掴み上げ、それが出来ないようにしてしまう


「言っとくけどな、変な気起こすんじゃねーぞ?てめぇが勝手な事しやがったら、真柴のガキもただじゃすまねぇぜ?」



・・・・・・真柴に・・なにする気だ!?こいつ!?



俺はあらん限りに目を見開いて、ゾッとするほど冷酷な田島の目を凝視した
薄笑いを浮かべたその表情は、冗談を言っている気配は微塵もない

俺が真柴の所から居なくなれば、それで何もかもカタがつく・・・!そう思ったのに
真柴が獣医になる夢を捨てなくて済む・・・!そう思ったのに


なのに!なんで・・・!?


「大人しく俺に飼われてな。お前にはもう客がついてるんだからな・・・」


ニヤニヤ・・・と笑う、嫌悪感しか感じない田島の笑み
これ見よがしに見せ付けてくる、首輪から繋がれた・・・決して逃れる事の出来ない銀色の鎖

自由のない
鎖でつながれた・・・どうぶつ
飼い犬なんて可愛いもんじゃない

ただの・・・家畜


結局

俺は、ただ、真柴を裏切って
今までの動物達と同じく、真柴の前から居なくなった

それだけじゃない

真柴の名前を呼びながら
他の男達に突っ込まれて、よがって・・・っ
真柴の名前さえ、穢した

もう、二度と、真柴に会えない
会えるわけがない


今の俺は、薄汚れて穢れた、家畜以下・・・のどうぶつ・・だ


その田島の背後から、数人の男達が近付いてくる
田島が掴んでいた俺の顎を解放し、背後に向き直った


「クスリ付きで1時間5万、感度の良さと身体の良さはビデオで証明済みだからな」


笑いを含んだその言葉に、俺は田島が言った”客がついてる”の意味を理解した

背後に居たのは、腹の突き出たハゲ親父
舐めるような目で俺を見て、田島の手の中に数枚の金を手渡している


「っ!?ふざけんな、誰が・・・っ!?」


叫んで起き上がろうとしたけど、そのハゲ親父の横に居た田島組の組員らしき屈強そうな男達に、あっという間に身体を押さえつけられて、ベッドの上で尻だけを突き上げさせられる


「ま、多少躾が行き届いてない点が難点なんでね。大サービスに自分から尻尾振って欲しがるようにしておいてやりますから、ご心配なく・・・」


・・・グリッ


身体の中に後からねじ込まれた、指

途端に感じた覚えのある熱さ

ビクンッ!と身体の奥底が、勝手に疼き始める

再び激しく脈打ち始める心臓


抜き差しされ、体の中に擦り込まれ吸収されていく、熱さのモト


自分の中の心臓の音しか聞こえなくなる


目の前に広がる景色が、溶け始める



『・・・・・ジュン』


耳元で注がれる、真柴の声


「りょ・・すけ・・・?」


ハッと顔を上げた目の間に、俺の一番好きな
あの、妙に迫力のある笑みを浮べた・・・真柴の顔


本当は


もう二度と会えない

もう、どんなに会いたくたって、会えない

触れることも、抱かれる事も、もう、二度と・・・!


霞が掛かった頭のどこかでそう叫んで泣いている自分が居た


だからこそ


俺の口から

ずっと言いたくて・・・言えなかった


そして


もう言うことさえ叶わない言葉が、勝手に流れ出る



「りょう・・すけ・・・好き。大好き・・・だよ」



悪夢だと・・・頭のどこかで分かっていた

それでも


目の前に浮かぶ真柴の笑み
注がれるその声音


その幻影から逃れる事なんて出来なかった


もう、そこにしか真柴は居ない

そこに居る限り、俺は真柴に触れていられる



「あ・・・っあ・・・んっ・・・りょーすけ・・っ!」



ありえないほどの快感が注ぎ込まれていく



逃げ道のない、悪夢



でも



夢から覚めない限り、そこが現実



だから




ただ、その夢から覚める事だけが





怖かった




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