始発恋愛









ACT 2










次の日

僕はいつものように

いつもの指定席に座った

いつもなら

自然と眠くなって閉じてしまう目も

きょうはしっかりと開けていた

だって

3つ目の停車駅なんてあっという間だ

あいつが

乗ってくるはずだから

そう思っていたのに

電車が走り始めてしばらくすると

隣の車両とのドアが開いて

あの

昨日のおっさんが入ってきた

ハッとして

思わず視線が合いそうになって

慌てて下を向いた

来るな・・・!!

心の中で叫んだ

だけど

ギシ・・・・ッ

すぐ横でシートの軋む音と

座った気配

そして

昨日と同じように

僕とおっさんとの間に

セカンドバックが無造作に置かれた

あ・・・・、逃げ・・なくちゃ・・・!

そう、思った

だけど

そのおっさんの姿を見ただけで

身体がすくんで動けなくなっていた

昨日と同じように

シートと太股の間におっさんの指が入り込んでくる

ゾ・・・ッと悪寒が背筋を駆け上る

身体が言うことを聞かない

立ち上がりたいのに

身動き一つ出来ない

悔しくて

不甲斐なくて

でもどうする事も出来なくて

僕はただ

その気持ち悪さと恐怖に

耐えていた

そして

3つ目の停車駅で電車が停まる

ドアが開く音と供に

誰かが近寄ってくる気配

俯いている僕には

それがあいつなのかも分からない

だけど

僕の横に座る気配はなくて

代わりに

ガツ・・・ッ!!

という鈍い音が車内に響き渡った

「・・・え!?」

その音と同時におっさんの指が消えていて

顔を上げると

あいつが・・・!

おっさんの横っ面を殴り倒して、言い放っていた

「警察に突き出してやろうか!?ああ!?」

おっさんは

そいつのその迫力と殴られたショックで

一瞬放心していたが

もう一度あいつが

ガン・・・ッ!

と、おっさんの座っていたシートに蹴りを入れると

真っ青になって

殴られた頬を庇いながら

隣の車両に逃げ込んでいった

「・・・・フンッ、色ボケジジイが・・・!」

吐き捨てるようにそう言ったそいつは

僕の隣じゃなく

いつもの

そいつの指定席である

向かい側のシートの端に座った

僕は唖然として

そいつを見つめた

だけど

昨日と同じく

そいつは

長い足を組んで腕組みをして

俯いて目を閉じてしまった

一瞬、その出来事にざわついた車内も

何事もなかったかのように

目を閉じてしまったそいつの様子と

その車両から消えてしまったおっさんの存在

元凶がなくなると

すぐにもとの静寂を取り戻してしまった

僕は

ようやく状況を把握して

ホッとすると供に

再び

どうしよう・・・!

と唇を噛み締めていた

今度こそ

間違いなく

あいつは僕を助けてくれた

だけど

あいつは

礼を言われることを拒否るかのように

俯いて、目を閉じている

ほんの数歩の車内の距離なのに

まるで

遠い遠い彼方に居るかのような

そんな拒絶感

思わず泣きそうになって

その泣きたい理由に

自分で驚いた

僕は

どうやら

こいつが僕の隣に座ってくれなかった事に

ショックを受けているらしい

その上

助けておいて、あからさまに無視されている事にも

あきれられたんだろうか?

昨日

『・・・気をつけろよ』

そう言われたのに

結局僕は、何も出来なかった

どこかで

あいつが助けてくれる・・・!

そう思っていたのかもしれない

その上

今も

このままだったら

礼も言わないまま・・・僕はまた・・・!

電車はいつもどおりに終点に向かっていく

あいつが降りる

終点一つ手前の駅に・・・!

ビシュ・・・ッ

電車が停まって、ドアが開く

昨日と同じくあいつがスッと立ちあがり

ドアへと向かう

僕の事などまるで無視して

「・・・っ、」

堪らなかった

ドアが閉まる直前

僕は

ガッ・・・!

と、ドアに手をかけて外へ飛び出していた・・・!




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