ヴォイス









ACT 13








・・・・ドサッ


風呂上りにミネラルウォーターのペットボトルを手にした高木が、どこか気だるそうに自室のノートパソコンの前に座った

つい、数時間前

久我の家で、久我を相手に
童貞卒業・・・というか、初体験・・・というか

とにかく

今まで知らなかった禁断の扉・・・
一度知ってしまったら、忘れる事なんて出来ない
そんな肉体的快楽の世界を知った

おかげで、風呂に入ってからもその時の感覚が抜け切れず・・・

久我の声と生々しい肉どうしの繋がり
絡みつき、引きずり込むように擦れる柔らかな内壁

あまりにも鮮烈に刻み込まれたその感覚を思い出しながら、高木は2回も抜いてしまったのだ

一度抜いて、その虚しさと罪悪感に苛まれながらも、身体が覚えている感覚には全然足らなくて・・・その持て余す熱のせいで2度目の自慰行為を余儀なくされた

やりたい盛りの高校生・・・の健全な肉体と精神を思えば、それは通常想定内の行為だと言っていい

ただ・・・相手が男、だと言う一点を除けば

もともとホモエロの漫画を描き、男同士のそういう行為に興味があった高木だから、久我に誘われるままに・・されるがままに任せてしまった

本当は、自分の方が心のどこかで久我とそういう行為をやってみたい・・・そう思っていたのかもしれない

一番最初にキスされた時から、本当は・・・

なのにそれを全部、誘いをかけてきた久我のせいにしてしまった


あの行為の後

高木は、シャワーを浴びに行った久我が部屋に戻ってくる前に身支度を整え、部屋に残されていた行為の残骸を片付け、部屋を出た

一階にあった風呂場のドア越しに『・・・じゃ、帰るから』と久我に声をかけ、『・・・ああ、じゃ、また明日よろしくな!』と、シャワーの水音と供に返された言葉に、何かを期待するかのように火照った自分の身体の浅ましさが信じられず、逃げるようにして久我の家から飛び出し、帰宅したのだ


「・・・・・・なさけねぇ」


久我の家を出てから何度呟いたか知れないその言葉が、高木の口から流れ出る

ハア・・・ッと、大きく溜め息を吐き、何かを吹っ切るようにノートパソコンを勢い良く開け、立ち上げた




今、高木が使っているこの部屋は、母方の実家の祖父母の家の2階の一室
昔は母親が使っていたというその部屋を、高木が使っている

祖父母の生活は、ほぼ一階で全てが事足りる

なので2階はほとんど使われておらず、高木がこちらの家に居候して学校に通う事にしたのも、そういう好条件が揃っていたからだ

もともと小さい頃は、よくこの実家に母親に連れられて帰省していただけに気心が知れ、祖父母も高木も可愛がってくれる

居候の条件としての、あまり使わない2階の掃除全般がある以外、基本、祖父母も必要以上に高木に干渉することもない

美大志望・・・というのもあって、部屋にはたくさんの画材やデッサン、スケッチブックが所狭しと置かれている
変に触って描きかけの絵に何かあってはいけない・・・という考えから、祖父母が無断で高木の部屋に入ることもなかった

その恩恵をあやかって、こちらの家に来るのとほぼ同時期に、サイトでホモエロ漫画の別館も本格的にやり始めたのだ

もちろん、描いた漫画原稿は絶対に見つからない場所に隠してある
それでも、これがこの好条件の元でなかったら、高木はホモエロ漫画など描いてはいなかったはずだ
何しろ高木には妹が一人いて、ノックもなしに部屋にいきなり入られることも日常茶飯事・・・

そんなリスクの高い自宅では、到底こんな漫画など描けるはずがなかった

そんな諸事情と好条件から、高木は誰にも知られることなく、その秘密の趣味を続けられている
使っているパソコンもノート型で、祖父母の家からから自宅に帰るときも肌身離さず携帯できる

容量の事もあり、更新した画像はすぐにMOに落とし、内部に残している画像もパスワード入力しないと開かないようにしてある

親にも誰にも知られずに、今まで秘密を保持してこれたのは、高木のそんな用心深さ故・・・だ




契約しているサーバーにログインし、サイト向けに送られてきているメールや拍手コメントを確認する

ちょうど本編の漫画と別館の外伝とが、最終章に入った所なだけに・・・更新の度にコメント反応がたくさん書き込まれていた

高木はサイト上では性別、年齢、出身地、職業・・・などを一切公開していない
それでも、そういった事を感じさせない言葉を選びながら、コメントに対する返信は返信ページで必ず返していた

そんな律儀な高木の性格もまた、サイトに通う常連が増える結果に繋がっていた

そんな中で、”ゆき”というハンドルネームを見つけた高木が僅かに口元を上げながら、その内容を読む

この”ゆき”は、ノーマルオンリーだったサイト開設当時からの常連で、過去、悪質なコメントで嫌がらせを受けた時なども親身になって励まし、ずっと応援してくれていた

実はBL方面へ転向するきっかけを作ったのも、この”ゆき”からのBL風味なコメントで・・・それに肯定的な返事を返しているうちに、一気に別館を作らざるえないほどの盛り上がりになっていったのだ

”ゆき”から寄せられたコメントは、やはり、『ボイスドラマの完成を楽しみにしています!』という主旨のもので
他のたくさんのコメントも、ほぼ同じ内容だった

再び、ハア・・・ッと溜め息を吐いた高木が、コメントページを閉じ、リンクページから久我のサイトへと飛んだ

久我のサイトはほとんどが受けた仕事や、サンプル用ボイスなどで構成され、高木と同じくプロフィールなどは公開していない

だからこそ、高木も”来夢(らいと)”という名のボイスアクターが久我だと気が付かなかったし、どんなに声質が似ていてもまさか本人だなんて思いもしなかったのだ

仕事を受けてから納品まで、今まではそんなに時間がかかっていないというのに、高木が依頼した仕事に関しては”納得のいく仕事がしたいので、もうしばらくお待ち下さい”というコメントが、仕事内容で綴られたブログ上に書き込まれたまま、停まっている


「・・・納得のいく仕事・・・かぁ」


呟いた高木の脳裏に、あの、艶めいた久我の喘ぎ声が甦り、カアアァ・・ッと、一気に染まった顔を冷ます様に頭をブルブルと振る

その拍子に指先がマウスを動かし、画面の一部を反転させてしまった


「あ・・・?なんだ・・・これ?隠しページ?」


偶然、反転させてしまった画面の下

そこに、隠しページへの入り口らしき☆マークが白く浮かび上がっていた




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