ヴォイス











ACT 12








「・・・高木、早すぎ」


目隠しを剥ぎ取られ、視線が合った途端

さっきまで艶めいた声と吐息を吐いていたとは思えないほどの冷めた顔つきで、久我がそんな言葉を吐く

罪悪感と情けなさでいっぱいだったはずの高木の心が、瞬時に羞恥と怒りに変わった


「っ!?わ、悪かったな!初めてなんだから仕方ないだろ!」


思わず叫んでしまって・・・高木が『しまった・・!』とばかりに口元を覆う
実際、高木は付き合ったことはあってもキス程度で、最後まで至った事がなかったのだ


「へぇ〜?じゃ、俺が高木の初体験の相手ってこと?」
「うるさい!男相手に初体験も何もあるもんか!」


羞恥で真っ赤になった高木が、悔しげに久我を睨みつける


「言っとくけどさぁ、高木?女相手より男相手のほうがよっぽど気持ち良いんだぜ?なんたって、どこをどうすれば一番気持ち良いか知ってるんだから」


ニヤリ・・・と人の悪い笑みを浮べた久我がそう言い放ち、不意に再び高木の耳元に顔を寄せた


「・・・気持ち、良かったろう?」


落とされた、艶めいた声音
熱く耳朶に触れる唇
注がれる艶めいた吐息


その言葉に、その感触に

高木の身体がゾクリッと反応して、たった今達したばかりのはずの物が再び熱を持ちはじめる


・・・・・・・・ああ、くそ!なんだってこれぐらいで・・・!


高木が、自分でどうする事も出来ないその身体の反応に脱力する

耳元に久我の声が落ちると、途端に力が抜ける
それはもう、条件反射に近いと言って良いほどになってしまっている


「うわ、さすが高木!さっきイッたばっかりなのに・・・!」


その高木の身体の反応に気がついた久我が顔を上げ、感嘆の声を上げた


「わっ!ばか!もう触るな・・・って!」


当然のように触れてきた久我の手を、高木が慌てて振り払う


「ちぇ、ケチ。じゃ、俺シャワーついでに抜いてくるから、高木も自分で抜いてみなよ?」
「え・・・?」


その言葉にふと見れば、久我自身も硬く張り詰めて天を向いている


「高木が早すぎて、イケなかったんだからな。次はもうちょっともたせろよ。罰として一人で抜いて、もう後戻りできない気持ちの良さを知った身体を実感してろ!」


そんなとんでもない言葉を残し、久我がさっさとシャワーを浴びに部屋を出て行く


「い・・・今、なんて言った?」


久我が残した『次はもうちょっともたせろよ』という言葉に、高木が茫然としつつもようやく身体を起こして半身を見やる

半勃ちになった自分のモノ
脱がされて散乱するズボンと下着
すぐ横に放置された潤滑剤らしきボトルとティッシュボックス

ベッドの上に目立った汚れがないのは、高木が久我の体内に放ったのと、引き抜かれると同時に脱力し、しばらく放心していた間に、久我が自分で処置したからだろう


「・・・・なさけねー・・」


胸元を大きく開けたシャツ一枚の自分のあられもない姿に嘆息しつつ、高木が胡坐をかいて半勃ちになったモノに手をかけた

さっきの、久我の舌が這った感触と久我の体内で締め付けられた感覚・・・

それを思い出しながら、高木の手が慣れた手つきで自分のモノを扱いていく


「・・・っ、く・・・っ」


息を詰め、あっという間に放った精を高木が手にしたティッシュで受け止める

けれど


『もう後戻りできない気持ち良さを知った身体を実感してろ!』


そう言った久我の言葉どおり、そこで得た快感のなんと味気のないことか

一度他人の手で、舌で、口で、あの熱く絡みつく粘膜の中で・・・の刺激と快感を知ってしまった身体は、自慰程度では到底満足しなくなってしまっている


「・・・・マジ、かよ・・・?」


高木がガックリと肩を落とし、その認めざる得ない事実に茫然となる

久我は、次はもっと・・・と言った

それはつまり

久我が自分の中で納得の行く声が出せ、ボイスドラマとして完成させるまで、これが日常化していく・・・ということだ

本当に嫌なら

やっぱ、無理だ・・・!と言って明日から久我の家に寄らなければ良い

でも、そんな事など出来っこない・・と、たった今、高木は身を持って知ったばかりだ

ただでさえ卒業まで後僅かで、卒業してしまったら、もう、滅多に会えなくなるのだ
そんな事をしたら、滅多に会えない・・・その機会さえ、失う事になるだろう

ここで自分の中の罪悪感に負けて、本当の事を言ってしまったとしても、結果は同じ

久我に軽蔑され、卒業を待つことなく縁を切られてしまうだろう


それだけは、避けたい


例え嘘に嘘を重ね、罪悪感で押しつぶされそうになっても
身体だけの繋がりだったとしても

好きだと・・・言えなくても

それでも

久我の声を側で聞いていられるなら、それで良い・・・と高木が思う

どっちみち、みっともなく抗ったとしても
久我のあの声で囁かれれば、身体が勝手に反応する
知ってしまった快感を、なかったことになんて、出来やしない

こちらが拒みさえしなければ、得られる、肉体的快楽

それを手放せる人間など、居はしない


「・・・なんか、今の俺って、すげーユリアスの立場と似てねぇ?」


呟いた高木が、深く、嘆息する

相手が自分が仕える王子で、決して、手に入れて良い存在でも、手に入れられる存在でもない
それが分かっていて、それでもリアンの側に居ることを望んだ・・・ユリウス

そして、思いがけずそのリアンの身体を得、罪悪感に苛まされながらも抗えない衝動に、身体を繋いでいく・・・

まだ最後まで描ききっていない話ではある

だが、高木の中では、結末はハッピーエンド・・・だ


「はは・・・想うとおりに行くわけないよな、空想は空想、現実は現実。ハッピーエンドなんて・・・ありえねぇ・・・」


ふと視界に入った無機質な四角い箱

ネットという現実ではない、非現実への入り口を、高木が遠い目で見つめていた



トップ

モドル

ススム