ヴォイス
ACT 5
・・・・・・・うそ、だろ!?
高木がギュ・・ッと嫌な汗の滲んだ拳を握り締める
『新しい依頼』・・・その内容は、高木の漫画の主人公、リアン王子とその従者、騎士ユリウスが初めて結ばれるシーン
もちろん、男同士だ
元がノーマルな漫画だっただけに、元から連載していた内容には、そういう男同士の恋愛など盛り込まれていなかった
その内容は・・・
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強大な力を持ち、敵対し続ける白き竜と紅き竜
古からの血の盟約の元、その竜を従える力を持つ王家
その王家に仕え、王族を守る騎士・・・ドラゴンスレイヤー(竜を殺す者)と呼ばれる者達
善きもの・・・とされる白き竜を従える力を持つのが、背中に竜の形の痣”竜紋”を刻んで生まれる王子
そして、悪しきもの・・・とされる紅き竜を従える力を持つのが、エルフ族族長の血筋に何百年に一度かの割合で生まれて来ると言われる”紅き瞳”の双眸をした王子
ところが、皮肉な事に
対立する2匹の竜の闘いを引き起こさせないため
人間とエルフ族の友好を深めるため・・・に婚姻した王とエルフ族族長の娘との間に、”紅き瞳”を持つ王子と”竜紋”を刻んだ王子・・・の、双子が生まれてしまう
その事実を秘すため、兄である”紅き瞳”を持つ王子フレイは女として・・・姉として育てられる
出産に立ち会ったものは全員殺され、双子の王子の乳母だったユリウスの母もまた、城の地下深くの牢に幽閉された
”竜紋”を持つ王子として、次の王になる事が決定付けられているリアン
”紅き瞳”を持ち、白き竜と対立する紅い竜を従え、エルフ族の族長となるはずだったフレイ
供に双子の兄弟として、離れがたい何かを感じながらも、その屈折した環境と背負った刻印に、その重さに・・・やがて二人の心は別たれていく
そして訪れた・・・父である王の死
リアンとフレイ・・・二人に従者として仕えて来た騎士ユリウスは、ドラゴンスレイヤー(竜を殺す者)としても比類なき能力を持ち、王族を守り敵対する竜を殺す義務を負うはずの者・・・
フレイが姉ではなく、実はリアンの兄である事を知るユリウスは、その救いようのない深い心の闇を知る、唯一の人間
そして、望みもしないのに王家を継ぐ王子としての義務を背負わされ、同じ双子でありながら姉のフレイが持つ王としての能力との差を見せ付けられて悩むリアンが、唯一心を許す存在もまた、ユリウスだけだった
リアンとフレイ・・・・二人のうちどちらかを選ぶことを迫られた時
ユリウスは苦悩の末、リアンを選んだ
唯一の主君としてリアンに仕え、リアンを守ることを・・・
それを知ったフレイは、かねてから画策していたエルフ族と人間との戦争へと、本格的に軍隊を動かし始める
そして
遂に自らが王子である事を公言し、紅き竜を復活させてしまったフレイ
双子の兄弟でありながら、白き竜と紅き竜を従える力を持つものとして、敵対することを余儀なくされた・・・リアンとフレイ
そしてドラゴンスレイヤーとして、どちらかの竜を倒さねばならない宿命を帯びた・・・ユリウス
王家とエルフ族との戦いは?
兄弟として戦わねばならなくなった、リアンとフレイは?
ユリウスはどちらの竜を殺すことになるのか?
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まだ話は連載途中で、いよいよこれからクライマックスへ・・・といったところだ
そんなシリアスな展開な事もあり、漫画の本編は本館としてノーマルなまま描き続け、BL18禁エロ漫画は別館を立て、本編の外伝として描き続けている
高木が久我と知らず依頼したボイスアクターは、『白昼夢』というサイト名と”来夢(らいと)”というハンドルネームでネット声優のリンク集に登録されていた
ちなみに高木のハンドルネームは、平仮名で”りゅう”
漫画のタイトルは『竜国物語』
久我と知らなかったとはいえ、たくさんのサイトを巡っていて巡り会った”来夢”の声は、やはり、一度聞いたら忘れられない響きで、高木の耳から離れなかった
確かに、久我の声と良く似ている・・・!そう思いはした
久我の声と似ていたからこそ、依頼したのだ
この膨大な数にのぼるネット声優たちの中で、その声と出会い仕事を依頼し、それがまた、この久我本人だったなんて・・・・!
あまりといえば、あまりの偶然
高木は目眩すら感じつつ、何とか停まった思考を働かせ始めた
・・・・・・と、とにかく、落ち着け、俺!!
高木が必死に自分に言い聞かせる
まだ久我に、依頼主が高木自身だとばれたわけではない
黙ってさえいれば、まず、バレる事もないはずだ
そう、
このまま黙ってさえいれば
高木がリアンそのものだ・・・!と思っていた久我の声で、リアンとしての台詞を聞くことが出来る・・・ということ
久我にバレさえしなければ
これ以上望むべくもない、理想の声が、高木だけのものになる
あの、リアンの、艶っぽく喘ぐ声が・・・!
そこまで思って、ハタと、高木の思考が再び停止した
たしか、”来夢”は”BL18禁ものの依頼OK”という表示を出していた
それはつまり
久我が、そういう世界を知っていて、なおかつ、受け入れている・・・ということ
上機嫌で高木に背を向けたまま、依頼を受けた高木のサイトの説明に入っている久我に、高木がようやく声をかけた
「・・・え?久我って、そういう世界、平気なわけ?」
その問いに、『ん?』と振り返った久我が、実ににこやかに高木にとって青天の霹靂・・・!とも言うべき答えを返した
「ああ!そう、俺、基本バイで、相手が女だろうと男だろうと気にしないんだ。バイでリバOK属性。あ、意味分かる?」
「っ!?」
分かります・・・もの凄くよく分かってます・・・!そう心の中で叫びつつ、高木が驚きを隠せない表情で久我を見つめた
だって、女友達が多くて男に興味あるような素振り、今まで一度も見せた事なんてなかった久我が・・・!?
「驚いた?意味分かんないなら、詳しく説明・・・」
「い、いい!わ、分かるから、なんとなく・・・!」
慌てて首をブンブンと横に振り、ほんのり耳朶を染めた高木が焦ったように久我の言葉を遮った
「へぇ・・・分かるんだ、高木。そりゃラッキーだな。んじゃさ、このサイトの『竜国物語』の外伝の方、読んでも平気っつーこと?」
少し意外そうに目を見張った久我が、嬉しそうに笑って画面に表示させた高木のサイトの外伝入り口を指し示す
「・・・・う、まあ、読む分には・・・多分・・・」
どうせ知らぬ存ぜぬ・・・ではいつかボロが出る
それならばいっそ、読んで内容を知っている・・・事にしておいたほうが無難・・・!というものだ
「よかった!さすが高木!お前ってやっぱ理解あるよなー!でさ、肝心の相談・・・なんだけど、相談って言うより、頼みごとなんだよねー・・・」
意味深に笑った久我が告げた『頼みごと』
それに
高木は自分が依頼したボイスドラマの内容を、本気で後悔する羽目に陥ったのだ・・・