ヴォイス








ACT 20








「え!?時間指定しなかったのか!?ちょ、母さん!急ぎの書類だって言っただろ!」


高木がようやく引越しのダンボールの山とさよならできた自分の城で、携帯に向かって不満げに言い募っている

学校関係に必要な書類を高木の母親が他の荷物と一緒にこちらへ送ったのだが、時間指定していなかったせいだろう・・・夕方を過ぎてもまだそれが到着していなかったのだ

まあ、それでも今日中には着くはずだから・・・!と、言う母親の言葉を信じ、高木がバチン!と携帯を閉じた


卒業式からもう半月近くが経ち、引越しやなにやでゴタゴタしていたものがようやく一段落着いたばかり

結局

久我は卒業式には出ず、あの言葉どおり、一足先にこっちへ来ているらしい・・・のだが

高木は久我らしい人物をまだ見かけたことがなかった

高木が住むこの場所は早い時期に決まっていたせいもあり、久我にこの場所の話をした記憶がある

高木がどの大学へ行くかも、当然久我は承知している
『今度は気づけよ』と言った以上、高木の近くに居るはずなのだ

また、気がつかないままなのかな?と、時々不安に思ったりもするが、なんとなく、高木にはまだ久我は自分の前に現れていない・・・という確信があった


今は、もう、久我がどれほど自分にとって大事な存在か、分かっているから

もう二度と見過ごすはずがないから

もう、嘘をつく必要はないから








「・・・・・・・・・・・遅ぇ。ホントに今日来るのかよ?」


何度目かの同じ愚痴が、高木の口からこぼれ出た
時刻はもう夜の10時を廻ろうとしている

宅配便センターに電話してみるか・・・と、先ほど母親からきいた番号に電話をしようと携帯に手を伸ばした途端


『ピンポン』


玄関の呼び鈴が鳴った


「っ!やっと来たか・・・!」


呟いた高木がインターホンを取り、『はい』と答える
インターホンの画像に映し出されたのは、見慣れた宅配便の配達員の制服


『遅くなってすみません、お荷物をお持ちしました』


電子フォン越しの雑音と供に聞こえた声
その声に、一瞬、高木が目を見開く


「・・・・今あけます」


そう言った高木が、マンションの集合出入り口のドアを開錠し、ドアホンをガチャンッ!と乱暴に戻すと玄関に走り、ドアの鍵を外し、再びインターホンの前に戻った

しばらくすると再びインターホンが鳴り、配達員がドアの前に来た事を知らしめる

おもむろに高木がドアフォンを取って言った


「すみません、今ハンコ探してるんでドア開いてるから荷物、中に入れておいてもらえませんか?」
『・・・・分かりました』


玄関先でドアが開いた気配がし、ガチャンと閉まる音
続いて何かが下に置かれた気配

高木がようやく手ぶらで玄関へと向かった

玄関では、小型のダンボールの前でしゃがみ込み、配達員が渡す伝票を確認していた

目深にかぶった帽子から、少し長めの黒髪が覗いている


「すみません、ハンコ見当たらないんで、サインでも良いですか?」
「あ、はい」


伝票に視線を落としたまま配達員が短く返事を返し、ポケットから取り出したボールペンと一緒に伝票を差し出してくる

その手を、高木が伝票とボールペンごと握って自分の方へグイッと引き寄せた


「ぅわ・・っ!?」


思わず壁にもう片方の手をついた配達員の、目深にかぶった帽子を高木が取り去った


「髪、黒いのも似合うじゃん?久我?」
「っ!?」


至近距離でニッコリと微笑んで・・・髪を黒くして印象が全く変わった久我を、高木が見つめている


「な・・ん・・・!?」


驚いたように言いかけた久我の言葉を遮って、高木が素早く背後のドアに手を伸ばして鍵をかけながら言い募る


「変声期で多少声が変わろうが、髪の色で印象が変わろうが、久我は久我だろ。俺が久我の声を聞き分けられないとでも思ってたわけ!?」

「っ、」


思わず言葉を失った久我が、覗き込んできた高木の視線から逃れるように、項垂れる


「とりあえず、聞きたい事が山のようにあるから・・・!」


言った高木が強引に掴んだ手を引っ張って、久我を部屋の中へ引っ張っていく


「ちょ・・、高木、俺まだ宅配のバイトが・・・っ」
「嘘つけ!俺のトコで最後だろ!?こんな時間になるまで人を待たせといて・・・!」

「っ!」


返される言葉がなかったという事は、高木の推察が当たっていたということ

構わず久我を部屋に引っ張り込んだ高木が、無理やり久我を座らせた


「って、コトで、この伝票はモノ質ってことで」


そう言った高木が握っていた久我の手を解き、一緒に握りこんでいた伝票とボールペンを久我から手の届かない机の端に置いた


「・・なんだよ?モノ質って!」
「俺の質問に答えないと、伝票にサインしてやらない」

「っ!?おま・・・っ」
「俺が気付くかどうか試したんだろ!?俺は気がついたぞ!何か文句があるのかよ!?」

「・・・・・・」


黙り込んだ久我を前に、高木がその伏せられた目を真っ直ぐに見つめた


「・・・なんでこんな風にここへ来た?」
「・・・今言っただろ!気がつくかどうか試したんだよ」

「なんで?」
「お前が、気付かなかったからだろ・・!」

「そか。でも今度は気がついたぞ、一発で」
「っ、わ、わかってるよ」

「気付いたから、これだけは正直に答えてくれないか?」
「?なに・・・?」


ふと真剣な眼差しになった高木が、ズイ・・ッと久我の方へ身を乗り出した


「・・・お前、俺以外の奴と寝た?」
「は・・・!?」


身を引きかけた久我が、目を見開いて固まった


「だから、他の奴と・・・」
「っしてねぇよ!高木のオオボケ野郎!」

「オオボケってなんだよ!?俺は真面目に・・」
「ああ、もう!だから気づけって言ってんだろ!
俺は何度も言ったぞ!?ずっと好きな奴が居るって!
一途な性格なんだって!!」


真っ赤になって言い募った久我を、高木が不意にその肩に手を伸ばし抱き寄せた
今まで、一度も高木の方から仕掛けられたことのないその行為に、久我の肩が一瞬、ビクンと揺れた


「ちょ・・・っ、た・・かぎ!?」
「悪い、俺、ホントに鈍感だな。でも、お前・・・あんな風に手慣れてる感じだったから・・つい。
じゃあ、お前もさ、あの時が・・・その、初めて・・だったのか?」

「・・そ・・だよ。悪いかよ?だから次の日熱出して寝込んでたんじゃないか・・!」

「え・・・!?」


あの日の風邪は、それが原因・・・!
自分の鈍感さに改めて高木が絶句する

でも、そんな素振り一つ見せず、如何にも慣れてます・・という演技を久我が演じたのだから、仕方ないだろう・・!とも思う

それに・・・


「・・・じゃ、ひょっとして、声変わりしたのも・・童貞喪失が原因?」
「な!?なななに言ってんだお前!?どっからそんな少女趣味的小っ恥ずかしい考えが湧いてくるんだよ!」

「だって、俺、ファンタジーWEB漫画作家だし、久我はそんな漫画も、描いてる俺も、ずっと好きだったんだろ?」

「う・・っ、」


『そりゃ・・そうだけど・・』と、言い負かされるのが気に入らない・・とばかりに不満げに呟いた久我を抱く腕に力を込めた高木が、抱き寄せた久我のうなじに鼻を摺り寄せ、黒く染め直したのだろう・・その黒髪にほお擦りし首筋に顔を埋める


「ひゃ・・・、なにす・・・っ」
「じゃあ、変わった久我のその声は、俺のもんだな。俺が原因でそうなったんだから俺が責任取ってやる」

「は・・い!?高木!?おま、何言って・・・」
「お前がどんな容姿になろうが、どんな声になろうが、俺はもう絶対見失わないって言ってんの。
やっと気付けたんだぞ?誰が忘れたり手放したりするもんか・・!」


久我の首筋に唇を這わせながらそう言った高木が、そのまま遠慮なく久我の身体を抱き抱えたまま、ドサ・・とカーペットの上に押し倒す


「ちょ、た・・かぎ!!」
「気がつかなかった俺も確かに悪いけど、俺がドンだけがまんしてたか、お前は気がついてたのかよ?久我?」

「え・・・?」
「お前に好き放題されてる間、俺がドンだけお前を組み敷いて喘がせて、お前にイイ声を上げさせたいって思ってたか・・!
お前は気がついてたのかよ!?」

グイッと久我の両肩を押し付けた高木が、真上から久我と視線合わせ、熱い眼差しを隠すことなく注いでくる

以前は、目隠しで秘されて見えなかったその想いを


「・・・おま、そ・・んなコト・・考えて・・・たの・・かよ?」


言いながら、久我のその声が震えている
今にも泣きそうに、その顔がクシャリ・・と歪む


「お前に依頼した喘ぎ声、あれ・・キャンセルな?」
「へ?な・・んで?」


フフ・・・と意味深に高木が笑いながら、久我の上に跨って服を剥ぎ取るべく、久我の服のボタンを外していく

露わになった胸元に、高木の指先が忍び込んでいく


「あ・・・っ、」


小さく息を呑んだ久我の声


「その声聞いて良いのは俺だけだから。他の奴になんて誰が聞かせてやるもんか・・・!」
「ば・・・、何言って・・・んっ・・・!」


胸元の尖りを探り当てた高木の指先が、その形を確めるように、ゆっくりとざらついた指の腹が先端を硬く育てていく


「・・・・声、我慢なんかしたら・・・許さないからな」
「・・・えっ!?」


「言っとくけど、手加減なんて芸当できないぞ。なにしろ、誰かさんに”後戻りできない気持ち良さを知った身体”にされたもんでね。
おかげで毎晩お前を相手に頭の中でシュミレーションはバッチリだ。覚悟しろ」

「た、かぎ!?」


高木の言い放った言葉が信じられない・・!と言いたげに驚きの表情になった久我の顔が、あきれたような、照れたような・・・泣き笑いの表情に変わっていく


それから

宣言どおり、高木は手加減なしに思う存分、何度も頭の中でシュミレーションした通り久我の身体を組み敷いて、久我の上げる声を堪能した

喘ぎすぎて、久我の声が掠れて出なくなるまで











「久我ぁ〜〜〜・・・だから、悪かったって!しょーがないだろ?ずっと我慢してたから歯止めがきかなかったんだって!」


目の前で両手を合わせひたすら謝る高木に、久我が手にしていたメモ紙にボールペンを走らせる


<だからって、
 声が出なくなるまでやるバカがどこにいる!?
 高木のアホ!!>


「ほんと、ごめんって!カレーパンとチョコクリームパンとコーヒー牛乳は買ってきました!他は?なんか欲しい物、ない?」


カーペットの上に、久我の機嫌を直すため近くのコンビにまでパシって来た久我所望の品々を、高木が並べ立てる

ムッとした顔つきのまま上目遣いに高木を見上げていた久我が、おもむろに人差し指を突き出した


高木に向かって


「・・・え?」


その久我の動きに込められた思いに気付かずに、高木が『え?なに?』と、目を瞬く



・・・・・・・・この、超鈍感ヤロウが・・・ッ!



言葉に出来ないその言葉を、剣呑な視線で久我が高木に訴える

もう知るか・・!とばかりに突き出したその手を引っ込めようとした途端

不意にその手を、高木が掴んで引きとめた


「?」


怪訝そうに高木を見返した久我の目の前で、高木がその手を取ったまま片膝を付き、頭を垂れた


「あなたが私を不要と思うまで

側に仕えさせていただくだけでいいです、王子」


そう告げた高木が、ニヤリ・・と笑って久我を仰ぎ見る

一瞬、唖然・・とした顔つきになった久我の口元が不敵に上がった

同時に

取られたその手を逆に掴んだ久我が、高木の身体を引き寄せた


「っ、うわ・・・っ!?」


つんのめる様にして久我の方へ倒れこんだ高木の身体を、久我がしっかりと両腕をその首筋に回して受け止める

そして

高木が一番弱いと自負する左耳に、久我の唇が押し当てられた



『・・・高木!』



久我の

声にならない声が
言葉にならない想いそのものが

高木の耳元に注がれる




ただ、その声だけが鼓膜を震わせ、記憶に刻み込まれる


周りにあふれる


幾千、幾憶もの声の中で


その、声だけが








=完=

ススム





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モドル



このコンテンツ内の全ての文責は可那他に帰属します。
このコンテンツ内の全ての音責は空閑さんに帰属します。
無断転載等は禁止させていただきます。

あとがき>
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!
このお話は、「竜棲星」のりゅうかさんのサイトでボイスアクターというネット声優さんがたの存在を知り、空閑さんと出会ったことがきっかけで書く事になりました。
作中に出てくる高木の描いている漫画「竜国物語」は、りゅうかさんが描かれている「竜棲星」の漫画を元ネタに使わせていただいています。
リアン=シザークで、フレイ=ナスタで、ユリウス=カルナラです。
当然、高木のモデルがりゅうかさんで、久我のモデルが空閑さんです(笑)

私が空閑さんの声に惚れこんで、是非とも空閑さんモデルにした小説を書かせて下さい!と、お願いし、メール取材まで快く受けてくださって、書かせて頂くことに。(笑)
言い出してから約半年?(汗)長かった(笑)
思い切り捏造キャラになりましたが、書きながら自分で悶えたのは初めてです(笑)
多分、お二人をよくご存知の方々には、笑いのツボがそこかしこにあるのではないかと・・・!(≧∇≦)b OK!
最後に空閑さんから来夢のサイトまで作っていただくという、超サプライズな贈り物までいただいて、感謝感激雨あられです(笑)
お二方と、お二方のサイトを通じて知り合った全ての皆様と、こうしてあとがきまで読んで下さっている方々に、心から感謝します。
ありがとうございました。


☆スペシャルサンクス☆

竜棲星-Dragon's Planet