ヴォイス










ACT 7









「・・・・俺、お前が、好きだ」


唐突に言われた言葉に、胡坐をかいて座っていた高木がハッと顔を上げ、息を呑んだ


「ずっと昔から」

「お前だけを見てた」

「ずっと、好きだった」


ゆっくりと
けれど確実に

久我の真剣な瞳が、高木の逃げ場を奪っていく

それでも何とかその雰囲気に呑まれまいと、高木がジリジリ・・と後ずさった
するとそれを追いかけるように、久我が四つん這いになって高木の方へと迫ってくる


「お前以外いらない」

「お前さえ居てくれれば」


いつもの久我の声とは違う
少し掠れて、艶めいた声音

ゴク・・・ッと、高木の喉が鳴る



・・・・・・・・なんだって、こんなに急に豹変できるんだ!?



声・・・だけじゃない

見つめる瞳も
その表情も
その仕草も

たまらなく、色っぽくて・・そそられる



・・・・・・・・っちょ、これ、マジでやばいって・・・!



焦った高木が、迫る久我の顔をベシッとばかりに手で押し返した


「ま、待て、久我っ!!いきなり始めるな!!」
「っ痛!ちょ、高木!なにすんだよ!?」


「なにすんだ、じゃねぇ!始めるなら始めるって、言えっての!」
「たーかーぎー、どこの世界に告白するのに始めます!って言ってから言うバカが居るんだよ!?」


「そ、そりゃ・・・って!これ、台詞の練習だろうが!」
「そーだよ!だからこそ!だろ!!高木、本当に原作読んできたんだろうな!?」

「っ、ちゃ、ちゃんと読んだって!!」


思わず高木が言葉に詰まる
読んだどころではない・・・その台詞自体考えたのは高木なのだから


「あーやーしーい!んじゃ、さっきのリアンの台詞の前に言うユリウスの台詞、言ってみろ!」
「ほんとに読んだんだって!えっと、『あなたが私を不要と思うまで、側に仕えさせていただくだけでいいです、王子』だろ?」


言い放った高木を、久我が驚いた顔つきで見据えた


「う・・わ、すげぇ・・高木。よく覚えてるな」
「えっ!?」


まずった・・・!と思った高木だったが、その高木の焦りなど知るはずのない久我が、嬉々として聞く


「高木って記憶力良いのな!じゃあさ、ひょっとして台詞以外にも構図とか場面ごとのコマ割りとか、覚えてたりする?」
「っ、う・・・ま、まあ、だいたい・・・は」


ここで覚えていないと言って、また後でどんなボロを曝してしまうかも分からない
覚えている・・・と言っておいた方が無難だ、と判断した高木が
口ごもりながらも肯定した


「まじ!?じゃ、高木、ユリウスになったつもりでやってよ!」
「は!?お前、なに言ってんだ!俺、芝居なんてやったことねぇし、出来るわけねぇだろ!!」

「芝居しろって言ってるんじゃないよ、俺をリアンだと思って相手してくれって言ってんの!で、高木は自分をユリウスだと思ってやってくれたら、さっきみたいに照れなくて済むだろ?」

「バカ言うな!俺はお前みたいに器用じゃないんだ!目の前にお前の顔があるのに、リアンだなんて思えるわけねぇだろ!」


「・・・ふーん、顔・・・ねぇ」
「・・・?く・・が?」


不意に思案顔になって黙り込んだ久我に、高木が眉根を寄せる


「・・・じゃあ、さ、顔が見えなきゃ俺をリアンだって思えるんだな?」
「え・・・?」


久我の言いたいことが見えなくて、高木の眉間にますます深いシワが刻まれる
その間に、机の引き出しから何やら引っ張り出してきた久我が、再び高木の前に座った


「じゃ、これ、付けろよ」


そう言って久我が射し出したもの・・・に、高木が思わず目を見張った

それは・・・完璧に光を遮断して眠る時などに使うアイ・マスク


「目隠し!?これを付けろって!?」
「そ!だってお前、何度やったって絶対、さっきみたいに良いトコで邪魔するだろ?だから!」


「良いトコ・・・って、お前な・・・」
「練習相手になるって言っただろ、高木?目隠しするぐらいなんだよ。俺は本気で練習したいって言ってんの!真面目に協力してくれる気はないのかよ!?」


いつにない、久我の厳しい口調
その言葉に、高木の胸にズキンと痛みが駆け抜ける



・・・・・・・そうだよな、久我にとっては、仕事で・・・
      ドキドキしたり焦ったりしてるのは俺だけなんだ
      それにこれじゃあ、練習相手どころ・・・
      逆に邪魔してるようなもんじゃないか・・・!



「・・・・ごめん、悪かった。俺、こういうの・・・慣れてないからさ、どーにも恥かしくて・・・な、久我、俺、やっぱ・・・」

「今更逃げるなんて卑怯だぞ、高木!」


容赦なく言い放たれた久我の言葉に、高木が『・・・だよな』と、大きなため息をついて項垂れる

『頼みごと』に付き合ってやる・・・と言ったのは、他ならぬ高木自身なのだから


「・・・じゃあさ、良い方法教えてやるよ。演技する時のイメージトレーニング。目隠しするのは仮面を被るのと一緒だって思えばいいんだ。仮面を被ってる間だけ、全然違う人間になれる。目隠ししてる間だけ、高木はユリウスで、俺はリアン。
高木でも久我でもないから、恥かしいと思う必要もない」


そう言いながら、久我が項垂れたままの高木の目元を目隠しで覆い隠す


「・・・・はい、じゃ、漫画の場面を思い出して。ここはリアンの部屋で、ユリウスがリアンにリアンを選んだ事を告げた直後・・・」


言葉は呪文・・・とはよく言ったものだ


目隠しをされ視界が遮られると、聞こえる声だけが、世界を支配する
それに、もともとその漫画は高木自身が描いたモノだ

その場面を指定されただけで、ありありと暗闇しかない目の前に、その場面の構図、ユリウスとリアンの表情・・・
その全てが高木の脳内で自分と、久我とに摩り替わっていく

以前、久我がユリウスは高木と雰囲気が似ている・・・と言ったとおり、ユリウスは高木自身を投影して設定したキャラだ

そして、リアンは、久我のイメージそのもの

現実と空想が、闇の中ではいとも容易く溶け合い、混ざりあっていく


そう・・・


今、高木の目の前には、リアンが立っていて
ユリウスである高木は、その足元にひざまずいている


項垂れていた高木が、ス・・・ッと片膝を立て、久我の前でひざまずいた




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