ACT 22

 

 

みことは先ほどより少し顔色も良くなり、まだ眠り続けていた

そのみことの寝顔をジッと眺めていた御崎が、ス・・ッとサングラスをずらして、灰色の魚の目でみことを凝視する

『・・・なぜでしょう・・?私は、どこかで一度あなたに会った事があるような気がしてならない。そんなはずはないんですが・・』

まばたきをしない灰色の瞳に凝視され、その威圧感に身じろぎするように、みことが寝返りを打って、フ・・ッと目を開けた

慌ててサングラスを掛けなおした御崎が、いつもの腹の底にズンと響くような声音で言った

『みこと様、お目覚めですか?』

その声に反応するように、まだぼんやりとした瞳を御崎の方に向けたみことが、半分夢見ているかのような口調で答える

『・・・ン。み・・さきさん?なんで・・?』

御崎の姿がはっきりとみことの銀色の瞳に映し出された途端、ハッとしたようにみことがガバッと身体を起こして叫んだ

『巽さんは!?あの”水”飲んじゃって、大丈夫だった!?』

一瞬、なんの事だか分からずに、御崎が怪訝な表情になる

『申し訳ありません・・私にはなんの事だか・・・』

『あ・・!そ・・っか。あのね、僕の中に入ってたあの”水”が僕の身体の中から出られなくて暴れてて、それで、巽さんが朱雀の炎の力でその”水”を蒸発させようとしてたんだけど、巽さん、僕の吐き出した”水”を飲んじゃって・・・』

『飲んだ!?その”水”をですか!?』

みことのたどたどしい説明を遮って叫んだ御崎が、みことの両肩を掴んだ

『!?そ、そうです』

その御崎の迫力に押され、みことがポカンと口を開ける

『そんなはずは・・!巽様の様子に特に変わりはありませんでしたし、”水”の気配も感じられなかった・・。朱雀の力で”水”を消滅する事くらい簡単ですが、あの巽様がそう安易に媒体になる”水”を消すはずありません。一体、どうやって・・・!?』

『御崎さん、痛いです・・!』

みことが顔をしかめて訴える

思わず御崎がみことの両肩を強く掴んでしまっていた

『あ・・!す、すみません!!』

慌てて手を離した御崎は、眉間にシワを寄せている

『御崎さん?どうしたんですか?』

真剣に考え込んでいる様子の御崎に、恐る恐るみことが声を掛ける

『・・あ、申し訳ありません。巽様なら大丈夫です。調べたい事があるからと言われて、例の現場へ出かけていかれましたから』

『えっ!?一人で行っちゃったんですか!?』

みことの顔が見る見るうちに不満そうにプーーっと膨らむ

その様子に思わず考え事も吹き飛んで、クスッと笑い声をもらした御崎がなだめるように言った

『みこと様にはまだ一本分の点滴のにノルマが残っています。巽様のお役に立ちたいのなら、まずは失った体力を元に戻しておかないと・・・!』

『・・ウ。確かに・・まだ、身体が重いです・・』

『お腹すいてるでしょう?何か作ってきましょうか?』

『あ・・・』

みことが今までになく、口ごもる

確かに空腹感はあったが、食欲はまだない・・というか、何かを食べる・・という気になれずにいた

『え・・と、どっちかっていうと・・ポカリとか・・そっち系のほうが・・・』

そのみことらしからぬ食べ物に対する反応に、御崎がほう?と目を丸くしながらも、にこやかに言った

『分かりました。買ってきますのでちゃんと寝ててくださいね』

御崎が出て行った後、みことが一人浮かない顔つきで天上を見つめていた

無意識に自分の口元を指先でなぞっている事に気づき・・再び顔が真っ赤になった

『・・う、うわっ!!バカッ!!思い出すなっ・・!!』

さっき起こったばかりの出来事を鮮明に思い出して、心臓の鼓動まで早鐘を打つ

(ええ・・と、だから、あれは僕の中の”水”を取り出すために仕方なくああなっちゃったんだから、巽さんは何とも思ってないはずだし・・!だからこうやってドキドキする必要も・・顔を真っ赤にする必要もないんだってば・・!!)

心の中で思いっきり叫んで・・・

みことの口から「ハア・・・・ッ」と大きなため息がもれる

『やっぱ、そうだよね・・・』

そう声に出して呟いた途端、ポロ・・ッと涙が零れ落ちた

そんな事にも気づかないまま、みことが天上を見つめ続けている

(・・・なのに、なんで・・こんなに苦しんだろう・・?)

自分で自分の気持ちが理解できずに、苛立ったみことが思わず叫ぶ

『あーーーーーッもうっ!!巽さんのせいだからね!!絶対、ぜーーーーったい、巽さんが悪いッ!!』

今まで自分が生きていくのに精一杯で、ただでさえ人目を引くその容姿を、何とか目立たないように・・他人の目に留まらないように・・他の人間に関心を持つなどという事すらなかったみことの、初めて覚えたこのわけの分からない感情が、”人を好きになった故の気持ち”なのだという事に気づかないのも無理はなく・・

ただ、悶々とどこにもぶつけようのない感情を持て余すしか術を知らないみことだった

 

 

 

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