天空の破片
ACT 2
ペンザンスに到着するまでどれほどの時間がかかったのだろうか。
エアバスに乗り込んでからの時間は、その謎の女性が言ったとおり、退屈…という言葉とは無縁な時間だった。
なにしろ、驚くほどに会話のネタが豊富だったのだ。
北斗も客商売、しかも相手は大企業のSEO(最高経営責任者)やどこかの国の首相や王族関係、社交界でも名の通った著名人、俳優、女優…どれをとっても一筋縄ではいない人種ばかり。
当然、供する話題も多岐にわたり…身につけた知識や話術では他に引けはとらない…!という自負が北斗にはあった。
それが。
…まいったなぁ。
北斗が心の中で嘆息する。
北斗が口にする話題に合わせて臨機応変に返事を返し、その素性を少しでも探ろうと話題を振っている北斗の言動を見透かしては、かわしてくる。
そればかりではない、言葉巧みに問いを問いにして切り返されて、いつの間にやら北斗の趣味嗜好の話題になってしまっていた。
「バカンスはリゾート派なのね」
「そうですね…自然に囲まれてのんびりできますから」
「ふふ…しかも完全なプライベート空間の確保できる所?例えば、モルディブあたり…」
カラン…ッ
北斗が手にしていたジントニックの氷の音がやけに大きく響いた。
「…お聞きしたいことがあるんですが」
「あら?なにかしら」
「…アルとはどういうご関係で?」
「どういう関係があなたにとって理想なのかしら?」
「ありのままを」
アルの名前を出しても顔色一つ変えることなく即答した女性の言葉に、北斗も動じることなく真っ直ぐに見つめ返して一言で切り返す。
泊まったホテル内部からの北斗の行動、バカンスの行き先…そこには全てアルのプライバシーも含まれている。
あのアルが、自分のプライバシーをそこまで知られていて、その上で北斗一人を残してどこかへ行くなど…有り得ないことだ。
だが、今、その有り得ないはずの事が起こり、いつもはどこかに感じるはずのアルの気配が、全く感じられない。
どんな理由があるにせよ、アルが出し抜かれ、北斗が半ば拉致状態にあるという事は否定できない事実だ。
しかもアルは、昔馴染み…絡みで、自ら北斗の側を離れていった。
敵かもしれない相手に、そのプライバシーが知られていた状況で。
…絶対に考えられない。
そう、それは全く持って有り得ない事。
だが、たった一つ、それが有りえるかもしれない想定がある。
この女性は、敵、ではない。
そう想定すれば、アルが北斗を一人残して離れて行ったことも、プライバシーが筒抜けなのも、ある程度は納得できる。
ただ問題は、敵ではないとしても、アルにとってあまり喜ばしい味方ではないだろう…ということ。
何かの交換条件、もしくは、弱み…それをこの女性が握っている。
そう考えれば、全て納得がいく。
しかもおそらくそれは、昔馴染み…とも関連した、北斗の知りえないアルの過去の事で…だ。
「ふふ…ありのまま、ね。良い答えだわ」
薄い笑みを象ったまま意味ありげにそう言った女性が、ヘリに乗ってもかけたままだったサングラスをス…ッと外し、北斗を真っ直ぐにその瞳の中に捕らえた。
「…っ!」
その瞳に見据えられた北斗が、思わず息を呑む。
サングラスの下から現れた青い双眸。
その瞳の色は、ただの青さではなかった。
青く輝く深遠の海。
浅く広がるブルーラグーン。
どこまでも青く、突き抜けるような空。
一点の翳りもない、真っ青な明るい空。
この世にある全ての青が凝縮された、魅入られる瞳の色。
「…まさしく、ラピス・ラズリ」
考え出したら切りのない形容詞を一言で言い表すとしたら、その宝石が一番似つかわしい。
そう思いながら、北斗が小さく嘆息する。
言葉が出なかった。
ただ、その瞳を食い入るように見つめる事しか出来なかった。
その瞳に魅入られた直後、エアバスは目的のペンザンスに到着し、そこでしっかりと約束のお菓子を買わされた後、更に今度は女性のプライベート機らしきヘリに乗り換えて、約15分。
150もの島々からなる、シリー諸島が眼下に広がる。
着いた先は、そのシリー諸島の中にある小さな孤島だった。
その島の端、切り立った岸壁の上に城砦のように立つ、古い城。
銀白色の小塔とレンガ色の石組みの塔が、いにしえのゴシック様式を髣髴とさせる。
城の中心には噴水を核にした伝統的ブリティッシュガーデン、城の外側には、色とりどりに咲き誇る花々と深い森が絶妙なバランスを保って配されていた。
その孤島全体が城の敷地であることは、ヘリから見下ろした時点で明らか。
そして、その孤島の持ち主が先ほどのラピス・ラズリの瞳を持った女性…であることも。
その女性に案内されて、この古城の一室…砕ける波の白さと限りなく広がる青い海が見渡せる、岸壁の真上の部屋に、北斗は居る。
女性はといえば、その部屋に北斗を残し『着替えてくるわ』と出て行ったっきりまだ帰ってこない。
円形に張り出した塔の一部らしき窓辺は、その丸みに合わせて配された細長い窓が幾つも連なっていて、申し分のない景観を存分に楽しむ事が出来た。
部屋の中は年代物のアンティークで統一された、落ち着きのある装飾。
ゲスト用の待合室的部屋なのだろう…重厚な机とイス、寛げるソファー、部屋の奥にはピアノが設置されている。
それらを一通り見分した北斗が、再び円形の窓辺へと戻ってきた。
斜めに少しだけ開く窓は全て開け放たれていて、潮の香りが爽やかな風に乗り、北斗の漆黒の髪を掠めていく。
「…うわぁ、絶海の岸壁って感じ。そりゃ窓も全開に開けられないわけだ」
眼下を覗き込みながら呟いた北斗が、次に斜め右上に見えた深い森の木々から垣間見える芝生らしき緑に視線を流す。
「ゴルフ場…?にしては、ラインが真っ直ぐ過ぎ…」
「良い目の付け所ね」
独り言のように呟いた北斗の言葉を遮るように、不意に背後から先ほどの女性の声がかけられた。
振り返ってみると、部屋のドアを開け放って立った女性が、にこやかな笑みを浮かべて北斗を見つめている。
その女性の装いに、北斗が唖然と目を瞬かせた。
「え…?その恰好は?一体?」
「ありのまま…がお望みなんでしょう?」
ふふ…と意味深に笑った女性の出で立ちは、俗にパイロットスーツと呼ばれるダークグリーンのズボンにジャケット、手にはヘルメット…だったのだ。
「あ…りのまま…って…?」
「いつもどおりの私のスケジュールに付き合ってもらうって事。付いて来て」
言いたいことだけを命令口調で簡潔に言い放った女性がクルリときびすを返し、歩き出す。
『あ、はい…!』と、思わず従順に返事を返した北斗が、慌てた様にその背中を追いかけて小走りに部屋を後にした。
なぜだか、とうてい逆らえない…そんな風格と威圧感。
アルのそれと似通ったオーラ…とでも言えばいいのだろうか。
思えば、あの独特の青い双眸もアルのアイスブルーの双眸と酷似している。
加えて。
ハイドパークで言った『相手が王子様じゃね』という、あの言葉…。
冷やり…とした汗が一筋、北斗の背筋を伝う。
あのアルが出し抜かれた…その事実からして考えられなくはない想定だ。
だが、もしもその想像が当たっていたとしたら…この女性、いったい幾つなんだ!?
そんな驚愕の思いで、前を歩くピンッ!と真っ直ぐに伸びて隙のない背中を北斗が見つめる。
晒された目元には、確かに決して若くはない事を証明する小ジワがあった。
けれどそれはどんなに見積もっても30〜40台くらい…北斗より少し年上か?という程度。
おまけに手も顔も、その肌の張りと艶は感じた見た目を裏切らない瑞々しさを秘めていた。
「…っ、あの!お名前をまだ…」
まさか女性にあからさまに年齢を尋ねるわけにはいかない。
地下に続くらしき階段を降りていく女性に、一瞬詰まりながら北斗がまだ聞いていなかった名前の方を問いかけた。
「あらいやだ、言ってなかったわね。サンドラよ。あなたはどう呼べばいいかしら?」
階段を降りる歩調を変えることなく、顔だけ少し傾げ、魅惑的な青い双眸が流し目的に北斗に送られる。
アルのそれとよく似た仕草に、思わず北斗が息を呑む。
「っ、北斗…で結構です、サンドラ」
「じゃあ、北斗、一仕事終わってから約束のハイティーにするから、そこで待ってて」
階段を降り切ったところにあったドアを開くと、そこには今までの古城然とした古さとは全く違う、近代的な色味の壁と、ガラス壁。
ガラス壁の向こうにある部屋の中を見渡せるような、横長の部屋になったその場所で北斗に待つよう指示した女性が、一人そのガラス壁の向こうへと入って行った。
ガラス壁の向こう…正確には女性が入って行ったその部屋の更に奥にあった窓の下には、どう見ても最新鋭の機器を揃えた何かの工房…というより、実験・研究所?とでもいうべき光景が広がっていた。
しかも、尋常な広さではない。
雰囲気的には飛行場にある飛行機の格納庫…、それほどの広さと高さ。
確かに、この古城は断崖絶壁…とでも言うべき崖の上に建っていた。
その崖の下を利用すればこれくらいのスペースは確保できなくはない。
だが、いったい何のために?
そして、この、サンドラと言う女性は…!?
言葉を失って、ただ唖然と奥まった窓から垣間見える光景を見つめていた北斗が、ハッとした様に手前のガラス壁と繋がる部屋の中へと視線を移した。
部屋の中心には、どう見ても戦闘機のコクピットを模して作られたらしき乗り物と、それを太いアームとスプリングで繋ぐ機械、その設備のスタッフらしき数人の人間…。
「あれって、まさか…耐G訓練用の遠心機!?」
「はい、新しい耐Gスーツの効果測定でして…」
自分の呟きに対し不意に背後から返された返事に、北斗がギクリッと肩を揺らして振り返る。
そこには、先ほどバトラーと呼ばれていた初老の男がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
帽子とオーバーコートを脱いだ、クラシカルな燕尾服に蝶ネクタイ姿で。
いくら窓の向こうに広がる光景に気を取られていたとはいえ、こんな近くに近付く気配すら気取らせなかったその男に、北斗が目を見張る。
「ああ、申し訳ありません。気配を消すのは習慣でして…」
慇懃に非礼を詫びるように礼を返されては、北斗も『そうですか…』としか返しようがない。
気配を消すのが習慣なんて、いったいどういう人種なんだ?と、あきらめの境地で北斗の口から浅い溜め息が漏れた。
「それで、あの…これはいったい?」
「BS・システム(ブリティッシュスカイ・システム)社が開発中の試作機用に作らせたGスーツでして、本日中にその実用性の可否を出すように…と、連絡が入ったものですから」
「BS・システム…!?」
思わず北斗の声が大きくなる。
BS・システム社といえば、英国の軍事・宇宙産業最大手の企業だ。
「じゃあ、ここはBS・システム社の?」
「いえ、設備はSB・システム社ですが、ここはブラック公爵所有の島になります」
「っ!闇公爵…!?」
つい北斗が日本語でその名を言い募る。
名は体を表す…その名の通り、決して表だった公式な場には出てこない、現・王室とも血の繋がりがあり軍事面での決定権を持つ…とまで噂される人物だ。
表立った場には一切顔を出さないので、もちろん北斗も会ったことはない。
だが、囁かれる噂だけは絶える事がなく、名前だけはしっかり記憶に刻み込まれている。
「え…まさか、彼女がその…?」
「いいえ違います。特例もありますが、基本爵位は男性のみが継ぐ事になっておりますので…。サンドラ様は公爵の妹君にあたります」
「妹…」
唸るように呟いた北斗が再び視線をガラス壁の中へと移す。
既に遠心機は回転を始め、サンドラが乗ったコクピット型の乗り物の正確な形を目で捉える事は叶わない。
「…いったい、どれくらいのGで実験を?」
「前回で9Gでしたので、今回は10Gのはずです」
「10G!?それって…!」
「はい、人体的には限界と言われております。ただし実用性を無視した実験では12Gまで耐えた記録も残っていますが」
「限界…って、女性ですよ!?そんな…!」
「耐性で言えば女性の方が適しているんですよ?G−LOCK(G圧力による心神喪失状態)は脳に血流が行かなくなった状態に寄って引き起こされますから、心臓と頭の距離が近い小柄な身体の女性の方がなりにくいんです」
淡々と説明する男の口調は落ち着いていて澱みなく、こんな実験が日常茶飯事である事が伺える。
「でも、なぜ彼女が?」
北斗が納得行かない!とばかりに更に言い募る。
遠心機の周囲には数人のスタッフらしき人間が居て、サンドラと同じ耐Gスーツを着た若く屈強そうな男も混じっていたのだ。
その北斗の問いに、初老のバトラーが苦笑を浮かべて返事を返す。
「我々も何度もお止め下さるよう進言してはいるのですが…何しろ何でもご自分で確めないと気がすまない性分の方ですので」
「確める?何をですか?」
「コクピット内での操作です」
「操作!?」
「はい、サンドラ様が開発中のコクピットシステムですので…」
「え…、」
コクピット・システム…その言葉に、北斗がハッとした様に目を見開いた。
システム開発、サンドラと言う名前…どこかで、何かで…その二つの言葉を同時に聞いた事がなかったか?
必死に北斗が記憶を辿っている内に遠心機は止まり、いったん思考を中断した北斗が見つめる中、数人のスタッフがコクピット上部を開け、中に居るサンドラと何事か話し始めた。
完全防音らしきガラス壁越しでは、どんな会話が交されているか見当も付かないが、ヘルメットを脱ぎ操縦席からしっかりとした足取りで床へと降り立ったサンドラの表情には、不機嫌さを露わにした深い眉間のシワが見て取れた。
10G圧を受けて、ふらつくことなく立てるその驚異的な耐性もさることながら、周囲を囲むスタッフ達の態度と眼差しからもサンドラが絶大な信頼と崇拝…を得ている事が伺える。
そこに居るだけで他を圧倒し、従わざる得ない気にさせられてしまう…そんな全身から溢れ出るオーラと風格。
決して若くはないはずなのに、それを感じさせない瑞々しさとその美貌。
本当に若かった頃は群がる男どもは数知れず、さぞや周囲を翻弄しただろう…事が押して知れるというものだ。
なぜか不機嫌そうなサンドラとその周囲の反応を観察しながら、北斗が抜け目なく中にある機器類やスタッフの着ている服装等に視線を走らせていた。
初老のバトラーが言ったとおり、最新鋭の機器に刻まれた
”BSS”のロゴはスカイ・システム社のものだ。
そして白衣を着たスタッフの胸元に光るネームプレートにも、”BSS”のロゴ。
だが、サンドラと同じく耐G用のパイロットスーツを着た男が首から下げていたネームプレートには、別のロゴが入っていた。
”WF”の文字がデザインされた、ロゴ。
”WF”…?と眉根を寄せた北斗が、さっきシステム開発というキーワードで辿っていた記憶の中にあった、ある企業の名前を心の中で叫んでいた。
…っ!ウィング・フィールド社か!
米国の軍事・宇宙産業最大手…ウィング・フィールド社。
BS・システム社と双璧を成し、米軍閥で知られる一族・アレンビー家が所有する大企業。
このウィング・フィールド社とは、ハサン王子が展開する「AROS」での繋がりがある。
確か、新たな航空機官制システム開発への共同出資…そんな話の中でその名を聞いた記憶が北斗にはあった。
そして同時に甦った、確かにどこかで聞いたサンドラ…という名前の記憶。
…え、ちょっと…待って、
一瞬、北斗の思考が停止しかける。
いや、停止と言うのは正確じゃない。
自発的に強制終了しかけた…というのが本音だ。
だって、その名前は確か…。
ウィングフィールド社の現SEO(最高経営責任者)であり、元軍人でもあるフィリップ・アレンビーのパートナー兼システム開発最高責任者。
それが、サンドラ・アレンビー。
…マジで?
思わずゴクリ…と北斗が生唾を飲み込む。
ウィング・フィールド社はフィリップ・アレンビーが一代で築き上げた会社で、軍閥の一族…という背景を利用して軍需を一手に請負い、今では全米一と言われるほどの大企業に急成長した。
だが、そこまで急成長した本当の理由は、パートナーであるサンドラ・アレンビーの持つ、他の追随を許さない才能と技術力があったから…だと言われている。
秘密主義を嫌い、開発したシステムは全て公開、請われれば世界中どこへでもその技術指導に赴く。
”空飛ぶ至宝”
そんなあだ名が航空産業界でまかり通っているほど、彼女が開発した航空機システムはほとんどの航空機に取り入れられ、世界中の空を飛びまわっていると言って過言ではない。
その特許料だけでも相当な額に登るが、それらを全て次世代クリーンエネルギー開発に投資している事でも知られ、そこでも「AROS」との共同出資を行っている。
考えてみれば、「AROS」との繋がりは深いはずなのだが、なぜか今まで北斗は一度もそのSEOであるフィリップともサンドラとも顔を会わせた事がない。
意識的に避けられていた…?そんな風に考えると、ますます最初に思った想像が現実味を帯びていく。
けれど…。
じゃあ、なぜ、今頃になって…?
そんな事を北斗が思った時、不意にガラス壁と一体になっていたドアが開き、中から不機嫌そうな顔つきのままのサンドラが現われた。
「ディビット、お茶の準備は整ってるかしら?」
出て来た途端、サンドラが初老のバトラーに向かって不機嫌な顔つきそのままの、少し苛立ったような声音で問いかける。
どうやらこのバトラーの名前は、ディビットと言うらしい。
「はい、本日は良いお天気ですので中庭にセッティング致しましょうか?」
「いいえ、悪いけど南の丘の上にしてくれない?」
「…、承知いたしました」
一瞬、怪訝そうにディビットの片眉がピクリと上がったが、次の瞬間には事情を察したかのように笑み返し、優雅に北斗の方にも向かって一礼を返すと、先にその部屋を出て行った。
『何だ?』と北斗が思う間もなく、
「さてと、お待たせしてごめんなさい。約束のお茶にお誘いしても宜しいかしら?」
そんな言葉が、先ほどまでの不機嫌さを払拭したにこやかな笑みと共に北斗にかけられる。
穏やかに微笑んでいるはずなのに、感じる威圧感。
でもそれは決して押し付けの嫌な物ではなくて、仕方ないか…と何故か思わせてしまう不思議な、自信に満ち溢れた口調。
この女性とこうして間近に対峙して、逆らえる人間が果たしているのだろうか?と北斗が潔く降参の意を表して両手を軽く掲げ挙げた。
「”空飛ぶ至宝”とご一緒できるなんて、光栄です」
北斗のその言葉にサンドラの青い瞳が大きく見開かれ、次の瞬間フゥ…という溜め息と共に肩をそびやかす。
「…さすがね。希代のマジシャンには種明かしなんて必要なかった…ってとこかしら。楽しいお茶の時間になりそうだわ」
ふふ…とサンドラの青い瞳が細められた。