ACT 41
南の舵星・舵 貴也
荒く繰り返し上下する、少し汗ばんでほんのり上気した身体
薄闇の中に浮かぶ、伸びやかな少年らしさを湛えた瑞々しい肢体
あまりに無垢で綺麗すぎて・・・何だか罪悪感でいっぱいになる
それでも浅倉がいったときの表情は、思っていた以上に色っぽくて・・・こっちまでそれだけでいってしまいそうで、正直やばかった
まだ目の焦点が合っていない浅倉の額に口づける
これであの嫌な事を消す事が出来たかどうか・・今ひとつ自信はないけど、でも、消えてくれたらいいと願う
「浅倉?シャワー行く?」
そう呼びかけたら、ぼんやりとした瞳で俺を見上げてきた
「・・・なんで?舵は?」
一瞬、問われた意味が分からなくて浅倉を見つめ返す
「・・・え?」
「・・・それくらい、知ってる」
その言葉に、おもわず目を見開いた
「どうする気だよ?それ・・・」
移動した浅倉の視線の先にあるものが何なのか・・・ただでさえ熱く猛っているのだから見なくたって分かる
「・・・本気で言ってるのか?」
「人のいく顔だけ見といて卑怯だろ?俺にも、見せろ」
どうやら少し、怒らせてしまった・・・ようだ
口調がいつもの浅倉に戻っている
でも、見上げてくる瞳はどこか不安げで揺れていて・・・そのアンバランスさが愛おしいと思ってしまう
「・・・舵」
不意に伸びてきた浅倉の腕が、俺の首筋に絡んでくる
「・・・舵は・・相手が俺なんかじゃ・・いけないのか?」
ムッとした悔しげな口調なくせに、その表情は不安げで・・・その上漆黒の双眸には先ほどの余韻がまだ残って濡れている
ああ、もう、本当に・・・これは天性のものなのか・・?と息を呑んでしまう
相手を虜にする全ての術を熟知しているとしか思えない、その仕草、その眼差し
言ったらきっと怒るだろうから絶対言わないけど・・本当に初めてなのか?と聞いてしまいそうになる
「あああああっもう!人がせっかくなけなしの理性を総動員してるっていうのに!」
俺は首筋に回された浅倉の手をそのままに、その上に勢いよく突っ伏した
本当に、ほんとうに、ここまでで良いと思っていた
浅倉は・・・俺なんかが手に入れていい存在じゃない
自分を押さえ込んでいた物が外れた以上、これからの浅倉は限りなく上に向かって伸びていく
いつか、もうこの手に触れる事すら叶わなくなる・・・そんな高い・・たかい場所まで
これは予感
だけど、きっと確実に現実のものになるだろう・・・確信に満ちた予感
それなのに・・・!
「・・・なに?それ?」
まるで意味が分かっていない、非難めいた口調さえ漂う浅倉の声音
本当に、まだ子供なんだと思う
これから先の事だとか、自分自身が持っている輝きだとか・・・
そんな物が何にも見えていない
「・・・っの、ガキ!」
浅倉の上に突っ伏していた顔を上げ、その少し不機嫌そうな顔を見下ろして言い募った
すると途端に思い切り傷ついた顔つきに変わって、ハッとする
「・・・どうせ・・・俺は・・・」
プイッと顔を横向けた浅倉の目頭から、見る見るうちに涙が溢れてくる
「あ・・・・」
なんてバカなんだ・・俺は!
浅倉はついさっき弟達に「必要ない」と突き放されたばかりで・・・自信も何もかも全部失ってしまった状態だったのに
自分が誰かに求められている存在かどうか・・・それを一番知りたくて、確かめたがっているはずなのに
なのに俺は・・・自分の中の不安を浅倉にぶつけてしまっている
いつか・・・浅倉が自分から離れていくのを恐れて、それを浅倉のせいにして
「・・・泣かせて、ごめん」
それ以外言葉が見つからない
本当に・・・どうしてもっと大人になりきれないんだろう
結局また浅倉を傷つけてしまった
「・・・ッ泣いて、ない・・っ」
きっと・・・泣いてることを認めたくないのだろう
だけど、傷つけてしまったから・・傷ついたはずだから、それは認めなきゃならないと思う
「泣いてるよ・・浅倉」
そう言って、浅倉に嫌でも認めさせるために、その涙に唇を寄せ、吸い上げる
「泣いていいから・・・その涙を知ってるのは俺だけだから・・・俺がいつでも涙の跡を消してやるから」
そう言ったら、浅倉がギュッときつく瞳を閉じて・・・小さく頷き返してくる
胸が痛い
どうして・・こんなに愛しいんだろう
何があっても守ってやりたい
例えこの先、手が届かないほどの存在になってしまうとしても・・・ただ、今は、こんなにも必要とされ、求められている事を教えてやりたい
「・・・ごめん、浅倉・・・ずっと俺の側にいて、俺だけを見て・・?」
心からの謝罪と、心からのお願い
先を見ようとしていないのは、浅倉の持つ輝きを見ようとしていないのは、俺のほうだから
「・・・え?」
戸惑って、不安げな潤んだ瞳が俺を見上げる
「自分でどうしようもないくらい、浅倉が好き。だから、俺だけの物になって?」
どう考えても機知のない、子供じみた告白
でも今は、そんな言葉しか思いつかない
それくらい、俺は浅倉に溺れてしまっている
北の舵星・浅倉 七星
「ななせ・・・」
耳元でそう呼ばれてドキンッと心臓が跳ねた
『好き』とストレートに言われるより何より、舵にそう呼ばれることに身体が反応する
名前で呼ばれたのはこれが初めてじゃない
襲われて、心の中で舵に助けを求めた時、舵はその名前で俺を呼んであいつを殴り倒してくれた
『人の物に手を出す奴を殴ってどこが悪い』そう言って・・・
その言葉に、身体に震えが走るくらい嬉しさを感じてしまって・・・自分で驚いた
多分、その時からもう、舵とこうなる事を望んでいたような気がする
「・・・この髪もその瞳も、耳も・・指の先まで、七星の事全部知りたい・・・この身体の隅々まで、知らないところがないくらい、したい・・・」
聞いてるだけで背筋がゾクゾクする舵の声音が、耳元でそう囁いて耳朶を甘噛みする
「・・っん・・・は・・ぁ・・・」
どうしてこんなに感じるんだろう
舵の唇が、手のつめ先から腕、首筋、鎖骨、胸・・・ゆっくりと余す所なく食みながら降りていく
「あ・・・っん・・・・あ・・あ・・あ・・・」
どんなに堪えても、堪えても、絶え間なく漏れてくる声
ついさっき舵の手の中でいかされたばかりの筈の自分のものが、もう既に勃ち上がって来ているのが感じられて、信じられなくて腰を引く
「・・・だめ」
どこか嬉しそうな舵の声がそう言ったかと思うと、腰にしっかりと手が回されて逃げる事もできなくなる
「・・っあ・・か・・じ・・っ」
一番触れて欲しいその部分にあえて触れずに、足の付け根や柔らかい太股の内側を舵の唇と舌先が這い回る
「・・くぅ・・・あ・・あ・・・っ」
もどかしい刺激に腰が震えて浮き上がり、さっきから止めどなく溢れてきている先走りが双丘の割れ目に沿って流れ、濡れているのが感じられる
不意に腰に回されていた腕が解かれ、舵に両足を抱え上げられて驚いて半身を起こすと、舵が伸び上がってきて口づけられた
大きく広げられた足の間で、舵の指先がさっきから触れられるのを待ち望んでいた濡れて勃ち上がった物の筋を、ゆっくりと撫で上げる
「・・・っ・・・っ」
急に与えられた刺激に上げたはずの声が、舵の舌に絡め取られて溶ける
溢れていた液体が、その加えられる刺激によってますますその量を増していくのが分かって、恥かしくてたまらない
ようやく解かれた口づけの間で、飲み込み切れなかった唾液が糸を引く
「は・・ぁ・・・・」
与えられた空気に喘いでいたら、目の前で溢れた唾液を舵が指先で拭い去って、まるで見せ付けるように、さっきまで俺のものに触れていたせい濡れ光るその指を、舐め上げる
「あ・・・・・」
その舵の表情はとてつもなく扇情的で、見ているだけで顔が火照っていく
「・・・ななせ」
呼ばれただけで放置されたはずの自分自身から、ドクンと更に液体が溢れてくる
「・・・知って?」
切ない顔つきになった舵がそう言って、自分で舐め上げた指を再び俺自身に絡めたかと思うと、そこに溢れた液体と唾液で濡れた指先が更に奥へと滑る
「・・っあ・・・や・・・あっ・・あ・・・・あ・・」
自分ですら触れた事のないその場所へ、舵の指先がのめりこんでいくと同時に、もう片方の舵の指が胸の突起をつまみ上げ、反対側も唇で吸い上げ舌先で転がされる
「はっ・・ああああ・・・っ」
身体の内側をまさぐる強烈な違和感を感じているはずなのに、舵の舌先と指先が与える胸への痛みを伴う刺激による快感の方が強くて、背を仰け反らせて、起こしていた半身を再びシーツの上に沈めていた
南の舵星・舵 貴也
「あ・・・あ・・・ん、ん・・・っ」
浅倉の声が一層艶を帯びて、もっとその声が聞きたくてたまらなくなる
初めて触れた浅倉の固く締まった入り口は、既に溢れた液体で充分すぎるほど濡れていて、苦もなく俺の指を呑み込んでいった
背を仰け反らせて再びシーツに沈んだ浅倉の胸の突起を口に含んで、執拗に愛撫を続ける
そうしながら、徐々に差し込む指の本数を増やし、浅倉の熱い内壁をかき回した
「は・・っん・・っん・・・か・・じ・・!」
浅倉が俺の名前を呼んで、しっとりと汗ばんで上気した肌をより一層熱くして俺にしがみついてくる
俺は腰をしっかりと抱き抱え、胸元から首筋へと唇を移動させて耳朶を甘噛みする
「・・・あ・・っん・・・っ」
鼻に抜けた甘えたような声を上げて、背中に回された腕に力がこもる
浅倉は考えていた以上に俺との体の相性が良いみたいで、凄く、嬉しくなった
俺が与える刺激と快感を、必死になって追ってくれて・・・
その素直さが、ただもう愛しくて、愛しくて・・・涙が出そうになる
普段は大人びていて、その頭脳明晰さと冷静な物言いで接してくるだけに、今の、このギャップが自分だけに注がれているものなんだと実感できて、これ以上ないほどの幸せを感じる
差し入れた指先で入り口を探るように擦りあげると
「あ・・・・・やっ・・・!」
ビクッと浅倉の身体が痙攣した
俺は探っていたその場所を確かめるように、何度もそこを擦りあげる
「あ・・や・・あ、あ、あああああっ・・・!」
ビクンッビクンッと何度も浅倉の身体が跳ね、必死になって首を振り、しがみつく
「・・っや・・舵、苦・・し・・!助・・け・・・っ」
限界を訴える浅倉の下半身の象徴が、触れてもいないのに固く勃ちあがり溢れる先走りが、濡れた音を響かせて絶え間なく入り口を潤す
耳朶を食みながら、俺は浅倉に最後の許しを乞う
「・・・・良いの?本当に・・・全部俺のものにして・・・?」
嫌だといわれても、もう、止める気も、止める術もなかったけれど
「・・ち・・がう、俺が・・・舵を・・・俺のものに、した・・い・・から」
与えられた浅倉の言葉に・・・
自分のおこがましさに・・・
身体が震えた
北の舵星・浅倉 七星
・・・もう、どうしていいか分からない・・どこか壊れてしまったんじゃないかと思うほど気持ちが良い
舵の触れる全ての場所から電気が走ったみたいに、身体が勝手に反応する
最初は違和感があったはずの後の入り口を、舵の指先がかき回し始めると、やがてそれが神経が擦り切れそうになるほどのもどかしい刺激へと変わっていった
ズル・・・ッと舵の指先が引き抜かれ、その虚脱感と物足らなさに腰が浮いた
その腰を舵に軽く抱え上げられて、そこにとんでもなく熱いものが押し当てられる
「あ・・・・っ」
その熱さと質量に息を呑んだ
「七星・・・俺を知って・・?」
そんな言葉とともに、舵の手が既に勃ち上がっているものを包み込み、先端を擦りあげる
「は・・っ!あ・・あああ・・・っ」
身体がビクンと跳ねると同時に、押し当てられていた熱いものがグン・・ッと中に押し込まれ、入り口の内壁を刺激した
「はっあっ!・・・あっ・・んっ・・」
先端を擦り上げられる度に溢れ出る先走りが繋がったその部分を潤して、刺激に力の抜けた身体が、舵自身を苦もなく呑み込んでいく
自分の中で、自分のものじゃない火傷しそうに熱い物が脈打っている
「・・・ん・・・く・・・ん・・・っ」
ゆっくりと舵が埋め込んだ先端をスライドさせる
「あっ・・・あっ・・・やっ・・ぅんっ・・・」
自分で自分の声が信じられない・・・それくらい甘い声が漏れる
「七星・・・大丈夫?痛くない?」
そう聞かれて、必死になって首を振る
息が上がって、上手く喋ることすらままならない
「・・・っん・・か・・じっ!」
どこかへ流されてしまいそうなほどの気持ち良さに、腕を伸ばして舵にすがりつく
「七星・・・気持ち良過ぎて持ちそうにない・・どうしよ・・・」
耳元で舵のゾクゾクするほど艶めいて、余裕のない声音で囁かれ、全身が粟立った
「ば・・・か、舵の・・・いく顔・・・見せ・・ろ・・って・・・!」
分かってる
舵が俺に痛い思いをさせたくなくて、我慢している事くらい
「いって・・・舵・・・」
舵の耳元で囁いて、その耳朶に歯を立てた
途端に俺の中にいる舵が、グンと質量を増し熱くなったのが伝わってくる
「七星・・っ!」
すがりついた俺を抱きかかえるようにして、舵の突き上げるピッチが激しくなる
内側から壊れていくんじゃないかと思うほどの衝撃に、息つく暇もなくて、その苦しさに涙がこぼれた
涙でせいで舵の表情も霞んで見えなくて・・不安で、何度も舵の名前を呼んだ
舵もそれに応えるように何度も俺の名前を呼びながら、勃ち上がったままの俺自身を急激に擦り上げる
「あっ!あっ・・あっ・・あああああっ・・!」
舵の手の中に溜まっていた熱いものを解き放ち、全身がビクビクと痙攣する
同時に舵自身もきつく俺の中で締め付てしまったようで、大きくドクンッと震えたかと思うと体の中が温かなもので満たされていく
「七星・・・愛してる」
お互いに倒れこむようにベッドに落ちる直前、注がれた舵の言葉に、ようやく自分の本当の居場所を見つけられたような・・・そんな気がした