ACT 4




「おー!けっこうやるやんか!みこと!見直したぜ!」

都内にある、時間料金制で建物中のゲームし放題・・という、三階建てのアミューズメントパーク・・のボーリング・スペースに綜馬とみことの姿があった。

「ほんとですか?ボーリングなんて初めてで・・でも、おもしろい!」

「そりゃよかった!ヤロー二人で行けるとこ・・いうたら、こんなとこくらいやからなー」

建物中、見渡す限り・・ありとあらゆるゲームというゲームが、所狭しと並んでいた。

平日の午前中・・というだけあって、まだ人もまばらでゆったりと遊ぶことが出来る。

「でも、やっぱ凄いや!綜馬さんほとんどストライク連発じゃないですか!」

「あたりまえやろー!学生時代はゲーセン荒らしで名を馳せた男やで?オレは!」

「へー・・あの、聞いていいですか?綜馬さんの学生時代の話・・」

「せやなー・・みことがこのゲームで勝ったら、聞かせたるわ!」

「えー!?ハンディ下さいよ!僕、初心者なんですよ!?」

そんな・・他愛のない会話を交わしながら、綜馬とみことが目に付いたゲームを片っ端からやりつくしていく。

いつの間にかお昼時を過ぎ・・エネルギー切れのように、みことが情けない声をあげた。

「そーまさーん・・!お腹減りすぎて死にそうです・・」

「ああ?お!そういえば・・もうこんな時間か・・よっしゃ、飯にしよう!」

同じ建物内にある、カフェ・スペースに入った二人が・・トレイにあふれんばかりの食べ物を持って、ゆっくり話の出来そうなテーブル席に陣取った。

「・・みこと、お前・・ほっそい体してるくせに一体何処にそんだけのもんが入んねん?」

綜馬が呆れ顔でみことの持つトレイを見つめる。

それもそのはず・・綜馬の持つトレイに載っている物とほぼ変わらない量の食べ物が載っている。

「・・だって!朝ご飯、食べられなかったから・・」

ちょっと・・顔を赤らめたみことが恥かしそうに言う。

「なんや?腹の具合でも悪かったんか?でも、そんな風には全然見えへんかったぞ・・?」

「あ・・ち、違います!巽さん・・いなくて、一人ぼっちの朝ご飯だったから・・何だか食べる気しなくて・・・」

「・・!?なんやそれ?巽、家におったやないか?」

「あ・・!え・・と、あの・・それは・・・」

みことが慌てた様に口ごもる・・。

今日の巽の様子を・・上手くごまかして説明する事など、みことには出来そうもない・・。

「ああ、ええよ。無理すんな・・。ま、とりあえず、みことは朝から巽に会いとうてしゃーないのに・・会われへん・・と、そういう訳やな?」

「え?ええ・・と、あー・・はい・・そんな感じ・・です・・」

「そっか・・ま、それはおいといて、飯や飯!冷めてまう!」

みことの申し訳なさげな顔つきに・・気にすんな・・とばかりに綜馬が次々と目を見張る食いっぷりを披露する。

みこともそれに迫る勢いで・・あっという間に全ての物を胃袋に収めてしまった。

そんなみことの様子に・・綜馬が笑いながら言った。

「ここに巽がおったら、お前らの食いっぷり見てるだけで十分だ・・!って、絶対言うとるな!」

「あはは・・!絶対言ってる!それでもって、僕に食べろって言って自分のはちょっとしか食べないんだから!だからいつも・・・」

みことが・・何かを思い出した様にうなだれる。

「・・?どないした・・?」

「いつも・・食べて下さい!って言うと、お前の美味しそうに食べてる顔が見たいんだ・・って言って、笑うんです。その笑顔が、見たかったな・・て・・」

「・・・オレの勘は、やっぱ鈍ってへんな!」

「へ・・?」

顔を上げたみことに、綜馬が満足げな満面の笑みを返す。

「人間らしくなってきたやん・・あいつ・・」

「人間らしく・・って?」

ポカンとした表情で聞くみことに、綜馬が頬杖をついて・・遠くを見るような目つきになった。

「巽ってな・・お前に会うまで、ほんま人形みたいに無表情で、ほとんど人と口も聞かへん・・そんな奴やってん。その上あの美形やろ?だーれも近づかれへんし、いつ見ても一人やった・・」

「で、でも・・綜馬さんや御影先生とは、普通に・・」

「アホゥ!オレかてこれでも苦労したんやで?あいつのあの冷やかーな視線に耐えてやな、なんとか笑わしたろー!思て努力した結果や!まあ、結局無理やったけどな・・」

「笑わす・・て、それ本気で!?」

「あたりまえや!ま、関西人の宿命・・みたいなもんやな。あんだけ笑わへん奴、他におらへんかったからな」

「あははは・・綜馬さんらしい!巽さんの嫌そうな顔が目に浮かびますよ!」

「せやなー・・確かに嫌そうやった。けど、あいつ・・時々隠れてオレの事見てることがあってな。それに気ぃついてから・・なーんや、やっぱこいつも人と普通に話したいねや・・ってそう思ったんや」

「え・・でも、そう思ってるんなら、なんで・・巽さん・・?」

フウ・・っと、綜馬が一つ大きなため息をもらす。

「・・オレにも、その辺の事はようわからへん。けど、一つだけ分かったんは、御影の奴が巽に近づく奴を監視しとる・・それだけや・・」

「か・・監視って・・?」

「御影 聖治・・あいつはえたいの知れん奴や。御影と鳳・・この二つの家の係わり合いの事はよう知らんけど、あいつの巽に対する執着は普通やない・・。逆に言うたら、あいつのせいで巽は人間らしい感情を持てへんかったんやないか・・って、思えてならへんねん・・・」

「御影先生が・・・?」

確かに・・聖治が巽の事を特別だと思っているのは明白だ。

鈍感だと自覚しているみことにも、そうだとはっきり分かるほどに・・・。

そして・・・巽もまた、聖治の事を特別な存在だと思っていることも・・歴然とした事実。

二人の間にある・・決してみことの触れる事の出来ない何か・・それを、この何日かで思い知らされたみことだった・・。

「・・・それにな、ちーとばかし御影の奴とは・・個人的にいろいろあったし・・」

苦虫を潰したような顔になった綜馬に・・みことが思い出したように言った。

「そういえば・・御影先生と綜馬さん、あんまり・・仲良くなかったですよね・・?」

「そりゃーちゃうで?みこと?あんまり、なんかやない!決定的に・・や!」

本気で・・真剣な表情で言い切る綜馬に、みことが目を丸くする。

「綜馬さんが他の人の事を、そんな風にいうなんて・・・」

みことの言葉に、綜馬が自嘲気味な笑みを浮かべた。

「アホ・・オレかて人間や・・人の好き嫌いぐらいある。あいつに初めて会うたんは、オレが高1のときやった。そういえば・・・」

綜馬が不可思議な顔つきになって・・呟く。

「そうや・・!あん時も・・今日や!六月一日!この日やった!!」

「え・・!?」

みことが・・ハッと、ある事に気づいて絶句する。

綜馬が高1の時・・それは、巽と聖治が中2の時・・御影 雅人が死んだ日・・でもあった。

「・・・なんや・・縁のある日、やな?」

一瞬、顔色の変わったみことの表情に・・チラッと視線を流しながら、綜馬がそれに気づかぬ素振りでその時の事を話し始めた・・。




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