ACT 6




「こんな時に仲間割れですか?つくづくバカだな、あなた達は・・!僕は御影の人間ですよ?何の考えもなしにあんな挑発するわけないでしょう!?」

「な・・に・・!?」

網で縛られたまま・・笑みを浮かべて綜馬達を見据える聖治の、その心底ゾッとさせる瞳に・・思わずその場にいる者全てが後ずさる。

「・・運が悪かったと思って、あきらめてもらいますよ?今日は自分で自分を殺してやりたいくらい機嫌が悪いんです・・!」

そう低く呟いた聖治が、スッ・・と網に縛られていたはずの両手を広げた。

( こいつ・・!やっぱり・・!)

考えるより先に、綜馬の本能が危険を察知して・・弾かれたようにその場から飛び退り、同時にそのビルの周辺に結界を張り巡らした。

「お返ししますよ・・!自分の使う力がどういうものか、その身をもって知るべきです!」

叫んだ聖治が、まるで着ていたコートを脱ぎ捨てるかのように・・気の力で作られた網をいとも簡単に体から引き剥がし、それを投げつけた相手に投げ返した。

「うわあああ・・!?」

投げ返された男が、自分で作ったはずの網に捕らわれて・・締め上げるその力に悲鳴を上げる。

「な・・!?こ・・こいつ!?」

残った二人が同時に素早く印を切り、両手の中に作り上げた気の塊を聖治に向かって投げつけた・・!

二人分の気のエネルギーを受けた聖治の体が白い光に包まれる。

「アホッ・・!あんたら正気か!?そないなもんぶつけられたら・・下手したら死んでまう・・・・っ!?」

二人に食って掛かった綜馬の目が、白い光に包まれたままの聖治の・・不敵な笑みを浮かべた顔に釘付けになる。

「本当に・・あきれるくらいバカですね?力のない者にこんな事をして・・その身を守る術のない者が受ける痛みを考えもしない・・!」

「ばかな!!確かに命中したはず・・!!」

愕然とした男達が、再びその手中に気の塊を作り上げる・・!

ニヤ・・ッと笑った聖治が低く呟いた。

「・・お返ししますよ・・自分の力がどんな痛みを与える物か、味わうがいい!!」

パア・・ッと聖治の体が輝いたかと思うと、先ほど投げつけられた気の塊が、投げた相手に向かって跳ね返っていった・・!

「うわあああっ!」

向かってくる自分の気の塊に、再び自分の気をぶつけた二人の目の前で・・ぶつかりあったエネルギーが爆裂する!

その爆風に吹き飛ばされた二人が、剥き出しのコンクリート壁にしたたかに打ち付けられて、地面に転がった。

「・・な・・なんなんや・・?こいつの・・この・・ちから・・!?」

吹き荒れた爆風を、気の障壁を張って防いだ綜馬が・・うめき声を上げる二人を呆然と見つめる。

「・・へえ、いつの間に結界なんか張ったんです?辻・・綜馬さん?」

「・・・!?」

いきなり真近に自分の名を呼ばれた綜馬が、バッ・・!と振り向きざまに身構える。

「何で・・オレの名前・・!?」

したたかな笑みを浮かべた聖治が、ジッ・・と綜馬の顔を凝視する。

「いやだな・・自分がどれほど有名人か・・知らないんですか?近来稀に見る力を持った・・期待の高校生僧侶。あなたの名前を知らない人間なんて、この業界にいませんよ・・?」

「その台詞、そっくりそのままお返しすんで・・?中学生にしてすでに医師免許を取得した天才・・歴代の御影の中でも類を見ないいい医者や・・て、大ダヌキが言うとった奴やろ、お前・・?」

聖治の突き刺さるような視線を跳ね返すかのように・・綜馬が瞳に力を込める。

「身に余るほめ言葉ですね・・・耳が痛い・・」

自嘲気味な苦笑を浮かべた聖治に・・綜馬が問う。

「お前、能力者か・・?御影の人間は医療に関しては人間離れした能力を発揮するって聞いてるけど、それ以外の能力を持ってる奴の話は聞いた事がない・・・」

クス・・ッと笑った聖治が両手を広げて、隙だらけの態度を見せる。

「嫌だな。僕の何処に、何の能力があるっていうんです?あなたほどの能力者なら、僕に何の力もない事ぐらいわかるはずでしょう・・?」

「・・・・・」

綜馬が何一つ見落とさまいと・・聖治の全身を眺め回す。

だが、いくら見たところで・・聖治からは何の力も感じられない・・・。

それ故に・・綜馬の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

綜馬の勘が当たっていれば・・聖治のあの力は、<無>そのものだ。

何もない・・それ故に全ての物を吸収し、全ての物を跳ね返す。

つまり、聖治と戦う事は・・自分の力と戦う事を意味する。

能力者にとって、これ以上厄介な相手はいない・・まともに戦えば、自滅を招く・・。

「ああ、そうだ・・あなたに一つ言っておきたい事があったんです」

綜馬の表情から、自分の持つ<無>の効力に気づいたと判断したかのように・・勝ち誇ったような口ぶりで、聖治が言った。

「鳳 巽にこれ以上近づかないでもらえます・・?巽はあなたの事を迷惑がってる。それに・・巽に安易に近づけば、今以上に高野の他のお仲間達に反感をかいますよ?」

聖治のこの言葉に・・綜馬の顔つきが一気に険しくなった。

「何でそんな事をお前に言われなならへんねん?迷惑やっちゅうのは百も承知や・・!オレは巽と友達になりたいおもてるだけで・・それで高野山の連中がどうこう言ってこようが、オレの知ったこっちゃない!!」

吐き捨てるように言い切った綜馬に、聖治がスッ・・と眼鏡を外す。

「・・困った人ですね。せっかく無傷で返してあげようと思っていたのに・・」

「なにを・・!?」

再び聖治と視線を合わせた綜馬が、その・・今までと比較にならないくらい冷たい、背筋を芯から凍りつかせる聖治の目に・・金縛りにかかったかのように、体の自由を奪われる・・!

「もう一度だけ言います。二度と巽に近づかないで下さい・・あなたなんかに巽の友達は務まらない・・!」

大きく深呼吸した綜馬が、フウ・・ッと、全身の力を抜くように脱力し、ククク・・と低い笑い声をもらす。

「アホぬかせ!何で友達に務まるだのなんだの言う資格がいんねんな!?それに・・何でお前がそんな事を決めつけんねん?誰を友達に持とうが、そんな事は巽自身が決める事やろーが!」

いったん脱力した体に、金縛りを弾き飛ばすように再び気力をみなぎらせた綜馬が、聖治の氷のような瞳を睨み返す。

「・・へえ。さすが・・噂に違わず稀に見る力の持ち主・・精神力も並じゃない。ですが・・・!」

不意に身を屈めた聖治が綜馬の懐に飛び込んでくる・・!

「・・!?」

慌ててその聖治の体をかわそうとした綜馬だったが、金縛りの余韻の残る体を思うように動かせず・・逆に聖治に腕を取られて後ろでに捻じ曲げられる。

「く・・っ!?」

「知ってますか・・?ここが大動脈で、こっちが大静脈・・確実に相手の息の根を止めたければ、ここをほんの一センチ傷つければいい・・」

聖治の冷たい指先が、綜馬の首筋をなぞった・・。




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