お題に挑戦
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03:氷点下の夜、灼熱の昼
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砂漠の昼は灼熱の昼
砂漠の夜は氷点下の夜
そこまで違うはずない、ただの比喩みたいなものだと思っていた
「・・・・マジ・・・だったんだな」
流がふるり・・・と身を震わせて呟いた
昼間
しばらく歩くと、運良く雨季の時の川の跡だ・・・という窪地に出た
そこに生えていた木の周辺にあった、枯れた茎のような植物
それをハサンが急に掘り起こし始めたかと思ったら、その茎に繋がっていた芋のような実が出て来た
触るとぶよぶよとした手触りで、気持ちが悪い
ところがその実ををギュ・・ッと絞ると大量の汁が滴り落ちてきた
飲むと少し苦味が合って、決して美味い物じゃない
だが、渇いた身体には貴重な水分になる
いくつか掘り起こして、水入れにその汁を溜めていく
大きな岩場が合ったおかげで、その日陰で休息しながら作業が出来た
そうこうするうちに日が落ちて灼熱の昼が終わり、氷点下の夜が始まりを告げる
昼間に絞った実の残りかすは、貴重な食料にもなった
普段だったら不味くて喰えない・・・代物なのだろうが、今の状況でそんな事は言っていられない
とりあえず飢えと乾きを満たす事は出来たのだ
「・・・何がマジだって?」
先ほど小さく呟いた流の独り言を聞き逃さず、ハサンが聞き返してくる
「・・・あ、いや、昼間とは気温が全然違うんだな・・と思って」
「当然だ。砂漠だからな」
なにをバカな事を!といわんばかりの口調で返された流が、ムッとして『そーだろうよ!』とプイッと顔を横向ける
だが
寒さのせいもあり、二人は一枚布に一緒に包まっている状態
横を向いた所ですぐ側にハサンは居るのだ
気持ち、身体をずらして遠ざかろうとした流に、ハサンが言い募る
「なぜ離れる!?寒いだろう!」
「っ、っるせーよ!俺は別に寒くねぇ!!」
「・・・・ほお?」
飢えと乾きが治まったせいで、流がいつもの天邪鬼振りを露呈する
その流の横顔を見つめていたハサンの口元が、ニヤリ・・・と意味ありげに上がった
「・・・・そうか。だが、俺は寒い」
「へ・・っ!?」
流が油断した一瞬の隙を突き、ハサンがその身体を背後から羽交い絞め状態で抱き寄せる
「ちょ・・っ!!」
「砂漠の夜を甘く見るなよ、流!」
凛とした声音と供に、温かなハサンの唇が流の耳朶に触れる
その流の冷たい耳朶を温めるかのように、ハサンが唇を押し当てたまま言葉を続けた
「火も無い状態で眠れると思っているのか?早く身体を休めて日が昇りきらないうちにここを出る。明日からは昼間はなるべく休んで、夜歩く。
そうしないと持たないぞ?」
「っ、そ、それとこの状態とどーいう・・・」
「俺が、寒くて眠れないんだ」
流が素直になれないことを承知の上での、ハサンの命令口調
それが分からないほど、流もバカではない
それに今は、心も身体も子供の頃に感覚が戻ってしまっている
有り体に言えば
抱き寄せられても、身体の反応は鈍い・・・ということ
その羞恥がない分、抱き寄せられたその場所は、居心地が良い
子供なんだから、まあ、いいか・・・と、そんな言い訳を思いつく
ウー・・・・と唸りながらも流が観念したように大人しくなる
クス・・と密かに笑いながら、ふわ・・ッとハサンが布を広げて自分と流を包みなおした
背中に密着するハサンの体温
首筋にかかる温かな吐息
触れ合う腕
触れ合う足
直に触れる素肌の温もりは、どんな暖を取るよりも身体に心地良い
背後から廻されたハサンの腕が、緩やかに流の身体を拘束してくる
思わず
流の身体から力が抜けた
昼間の慣れない暑さに、この急激な気温の変化・・・
通常そんな体験などした事の無い流の身体が、疲労していないはずも無く
心地良い温もりに包まれて・・・流の身体がゆっくりと弛緩していく
「・・・・眠れ、流」
耳元で心地良い声が、そう、命令する
こんな時まで命令口調かよ・・・と流が心の中で苦笑する
でも
そうでなければハサンじゃないか・・・と、
心のどこかでそれに安心している自分が居る事は否定できない
「・・・お・・・まえ・・も・・・・」
眠れよ・・・と言いたかったはずの言葉が、規則正しい寝息に溶ける
「・・・流」
おやすみ・・・という囁きを耳朶に押し当てた唇でかたどって
ハサンもまた、流の温もりの中へと沈んでいった