お題に挑戦
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お題:04:小さな小さな生き物たち
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カサリ・・・
何かが足元で蠢いた・・・と、思った瞬間
「流、動くな・・!」
不意に、耳元に鋭い声が注がれた
まるで呪文のように、その一声で流の身体が硬直した
何かが、足元にいる
布地で覆い隠されているから見ることは不可能だ
だが、何か・・・小さなものがちょうど足の甲の辺りにいた
「・・・そうだ・・それでいい・・・お前は絶対に動くな」
そう言ったハサンの触れ合っていた足先が、ガッと流の足を蹴り上げるように動く
同時に身体全体を覆っていた布地を、ハサンがバサッ!と剥ぎ取った
「痛っ!!」
なにすんだ!?と抗議の声を上げる間もなくハサンの手に突き飛ばされた流が、砂の上に転がる
「・・っの、なにし・・・」
起き上がり、言いかけた流が言葉を失う
取り払った布地の上から、何度もハサンが何かを踏みつけている
そのハサンの足元
そこにあった、何かの、小さな虫の残骸
「サソリ・・・!?」
小さいけれど、毒々しいまでに赤黒い、サソリ
それが、数匹分潰されて転がっていた
「・・・運がいいぞ、流」
不敵な笑みを浮べながら、ハサンが言う
「は?運がいい?サソリに襲われた事がか!?」
「ああ。運良く俺もお前も刺されなかった。それに生き物が居るということはそれなりの環境が近くにあるということだ」
なるほど・・!と思う間もなくハサンが俺の手を取って歩き出す
まだ周囲は日の明け切らない薄い闇に包まれていて、暑くもなく寒くもなく丁度いい
この時間帯が一番過ごしやすいのだろう・・・よくよく気をつけて見てみると、何も居ないと思っていた砂の上に小さな小さな虫や生き物達が活動した痕が残されていた
「・・・結構、居るんだな、生き物」
「人間なんかよリ奴らのほうがよっぽど賢くてタフだ。中には乾季のときは干からびて仮死状態で、雨季になると再び活動を始めるモノも居る」
そう言ったハサンの横顔は凛として、流の手を握る指は温かく力強い
「・・・お前は、何があっても一人で生き延びて行きそうだよな」
ふと、流の口からそんな言葉が流れ出る
すると、不意にハサンの足が止まった
「・・・それはお前の方だろう」
「え?」
思いがけない言葉をかけられ、流が目を瞬いてハサンを見つめ返す
合わさったハサンの漆黒の瞳が、真っ直ぐに流に注がれていた
「お前は、何にも縛られない」
「へ?」
「お前は、どこへでも行ける・・俺と違って」
「っ!?」
「お前は、俺など・・・」
言いかけて、プイッと反らされたハサンの視線
何事もなかったかのように流の手を引いて黙々と歩くハサンの背中
・・・な・・んだ?今の、どういう意味だよ?
問いかける事を拒絶するハサンの背中を見つめる流からは、ハサンの表情を窺い知ることは出来なかった