お題に挑戦
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お題:05:風が吹き、大地が変わる
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日が昇り始めた先で、不意に、風が吹きぬけた
今までの風と、どこか違う
肌にまとわりつくような・・風
砂の地平線から射した、眩しい太陽の輝き
一瞬、その眩しさに視界が閉ざされる
眩しげに目を眇め、日を遮るように手をかざした流の横で、ハサンが『あ!』と声を上げた
「?なに・・・!?って!ちょ・・っ!?」
二人が居た小高い砂丘の上から流の手を引いたハサンが、急にその下に続いていた半分砂に埋もれた状態のゴツゴツとした岩場へと駆け下りて行く
「お、おい!なんなんだ・・・!?」
訳も分からず引っ張られて一緒に岩場へ駆け下りた流が、不満そうに手を振り払いハサンに問う
その流の視線の先で、ハサンが半分以上砂に埋もれた岩と岩の隙間を覗き込んでいた
その隙間から、先ほど妙な違和感を感じた風が流れてくる
「あの話・・・本当だったんだ・・・!」
そう叫んだハサンが、その隙間に手を突っ込んで砂を掻き出し始めた
背後に居る流の事など忘れたかのように、夢中になってハサンが砂を掻き出していく
やがて小さな隙間だった岩と岩の間に、子供が屈めば入り込めるくらいの穴が出来上がった
「・・・おい、ハサン?」
ハサンの取る行動の意味を図りかね、ただ見つめていた流が作業を止めたハサンの背に問いかける
すると、不意に振り返ったハサンがその口元をニヤリ・・と上げて笑み返した
「以前、砂漠のどこかに地下の鍾乳洞に続く入り口がある・・・という話を聞いたことがある。まさか・・とは思っていたが、あいつが嘘なんてつくはずない・・本当にあったんだ」
「地下?鍾乳洞!?砂漠の下にか!?嘘だろ!」
「・・・流」
冗談言うな・・!とばかりの眼差しを向けた流に、ハサンが静かに言い放つ
「最初からここが砂漠だったわけじゃない。ここは大昔は海だったんだ」
「は?海?!ここが!?」
「そうだ。砂が形を変えるように一つとして変わらないものなどない。自然の変化の前では人の一生など、この砂一粒でしかないんだ」
「・・・っ、そ・・りゃ、そうだろう・・けど」
「分かったら、行くぞ!」
「え!?おい、ま・・・っ」
唖然とする流を置いて、ハサンが躊躇することなくその穴の中へと入っていく
どうやら穴の先は下に向かって伸びているようで、四つん這いになって進むハサンの背中がすぐに見えなくなった
「う・・そだろ、ったく!行くよ!いきゃいいんだろーが!」
バリバリと砂まみれの紅い髪を掻き乱した流が、その後に続いて中へと入り込んでいった
穴の中に入り込んでみると、その先は急斜面になっていて・・・『うわっ!』という声と供に流がその先に落ちていく
「・・・つっ、な・・んだよ、ここ!」
思い切り打ち付けた尻を擦りながら起き上がってみると、滑り落ちた穴から僅かに差し込む光りで何とか視界が利く
意外にも落ちた場所は広く、十分に立って歩けるほどの広さがあるようだった
「流、こっちだ、来い!」
立った途端、再びハサンが流の手を取り先導していく
通路と言って過言ではないその穴の中は進むにつれて真っ暗になり、穴の壁に手を当てて手探り状態で進むしかなかった
どんどん下に向かっていた道が徐々に平坦になり、緩やかに流れてくる風はいっそう肌にまとわりつく湿り気を帯び始めた
と、
不意に道の先々・・壁や天井に点のような青白い光りが見え始めた
「なんだ?これ?」
壁に指を伸ばしてその青白い光りに触れた流の指先に、その光りがくっ付いてくる
「っ!?これ・・・コケ!?」
叫んだ流の目の前に不意に現れた、青白い輝きの塊・・・!
狭い通路だったその先に、突然現れた巨大な空間
不意に変わった、大地
かつて海だったことの表れ・・・地下に残った水分が染み出て作られた巨大な地下鍾乳洞
その地面から壁・・そこら中一帯に生えた青白いコケによって、巨大な空洞のようになった鍾乳洞全体が青白い輝きを放っていた
「す・・・げぇ、」
「ああ、凄いな・・・こんなに大きいなんて・・・!」
思わずハサンも感嘆の声を洩らしてその青白く輝く大地を見つめていたが、その空間の先にあった青白い光りとは違う、差し込む日差しの光りの帯に気が付いた
「っ!流、あそこ!」
流の手を振りほどいて駆け出したハサンが、差し込む光りの帯の源である空洞の壁によじ登っていく
その先に、岩の裂け目のような横に長い隙間が開いており、そこからハサンが外へと這い出していった