お題に挑戦
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お題:06:篝火の向こう
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「おい!ハサン・・・!」
這い出て入ったハサンの後を追った流が、同じく岩の裂け目から外へと這い出てきた
そこは大きな岩がゴロゴロと転がる岩場で、上を見上げると小山のように巨石が積みあがっている
外は既に日が高く登り、地下のひんやりとした空気や湿り気の欠片もない、灼熱の空気と渇ききった風が吹いていた
「ハサン!?」
すぐに後を追ったはずなのに、その姿が見えないハサンを流が慌てたように呼んだ
「流、ここだ・・・!」
積み上げられた岩の影になっている流の位置からは死角になって見えない上空から、その声が落とされる
ゴツゴツと突き出している岩を足場にして上へと登っていくと、岩場の一番上に、ハサンが座っていた
かなり高いその場所からは、見渡すばかりの砂漠と岩場が延々と続く様を見渡す事が出来た
「・・・何してんだよ?」
岩の上に座り、微動だにせず砂の地平線の先を見つめるハサンに、流がその横に座りながら問いかける
「・・・さっきのぼってくる途中で見つけた」
そう言って、視線は彼方を見つめたまま、ハサンが手にしていたモノを流に突き出した
それは、壊れた双眼鏡・・・おそらくはこの場所で誰かが野営かなにかした時に、置き忘れていったものなのだろう
「・・・なんだよ、壊れてるじゃん」
「よく見ろ、流、レンズが片方残っているだろう?」
「あ?ああ」
「それで火が起こせる。鍾乳洞の中なら何か喰える小動物も居るだろう」
「っ!なるほど・・・!」
それじゃあ早速!とばかりに腰を上げた流の横で、ハサンがまだ彼方を見つめている
「・・・・おい?」
「あ・・・?ああ、今行く」
どこか心あらず・・・といった雰囲気で返事を返したハサンが流と供に下へと降りていった
レンズを利用して起こした火を持ち込んだ鍾乳洞の片隅で、焚き火を前にした流が、今ひとつ浮かない顔つきで火の横に立てられたモノを見つめている
「・・・やっぱ、この系列だよなぁ・・・しかもなんだよこのデカさ・・・」
盛大なため息を吐きつつ言った流の目の前に、ヌッと突き出された焦げ付き気味に焼き上がった通常の倍はあろうか・・という巨大イモリの姿焼き・・・
外敵もおらず餌の豊富な場所だけにサイズは大きくなり、動きは緩慢で、捕まえる事など造作もなかった
「けっこう喰えるぞ?美味くはないがな」
そう言ったハサンが、串刺しになって焼き上がったそれに齧り付く
「・・・お前、王宮育ちだったよな?なんでそうも平然と・・・」
顔をしかめながらも受け取った流が、ハサンに出来て俺に出来ないはずがねぇ!とばかりに根性を決めた顔つきでシッポの先に齧り付く
食べ物らしい食べ物を摂取していないだけに、空腹だ
ハサンの言うとおり決して美味くはないが、十分に喰える代物だった
「・・・お前が居なくなるからだ」
「・・・・え?」
呟くように言ったハサンに、流がハッと視線を向ける
その視線を誤魔化すように、ハサンが焚き火に岩場で拾った干からびて繊維の塊のようになったサボテンの残骸を放り込む
下に落ちるまでにボウ・・ッとばかりに一瞬で燃え盛った炎が、篝火のように高く上がり、その向こうにあったハサンの表情を覆い隠した
治まった炎の先に見えたハサンは、もう、さっき言った言葉など忘れたかのようにイモリに齧りついていた
「・・・え?」
もう一度呟くように・・しかし誰に問いかけるでもないそれが流の口から流れ出て、ハサンを見つめた