お題に挑戦




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お題:08:さらさら零れて、掴めそうで掴めない

   09:道なき道を何処までも

   10:夕闇に包まれる前の一瞬、目に焼きついた紅

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「さ、行くぞ、流!」


そんなハサンの声に起こされた流が、鍾乳洞を出て再び砂漠を歩き始める

昨夜は遅く寝たせいか、久々に口にした食べ物のせいなのか、二人してよく眠っていたようで、外は昼を過ぎ、日が傾きかけていた

少ししのぎ易くなっているとはいえ、砂漠に変わりはない
時々吹き荒れる風に、足元を埋める砂に、足を取られ転びそうになりながら進んでいく

転びそうになって砂に手をつくたび、流がその砂を払いながら思う

さらさらと零れて、掴めそうで掴めない・・・砂
どこまでも続く、砂漠と荒野

何もかもが不安で、死の影すらちらつく

でも

その横にハサンが居る
同じ布地の中、身を寄せ合って、供に歩いていく

この、道なき道を、何処までも


・・・・・こいつ、だからなんだろうな
    このまま、ずっと、ゴールがなくても
    歩いていくのも、まぁ、良いか・・・なんて思えるのは


定められた道など、要らない

歩みたいのは、道のない、道
ゴールすらない、自分の足で作り上げていく道

それでも邪魔な道が立ちふさがるなら、壊してしまえばいい
逃げるのは、性分じゃない

一人では出来なくても、コイツが居れば、どうにかなる

たとえばそれが

国を背負う・・・そんな重い道であっても


そんな想いが、ふと流の脳裏をよぎる


「・・・着いたぞ、流」


不意にそんな言葉が聞こえ、ハサンの足が止まった


「へ・・?着いた?」

「そうだ、ここから見る夕日を、お前に見せたかった」


そう言ったハサンが、被っていた布地をバサリ・・と取り払う
そこは何かの遺跡のような柱の名残が立ち並ぶ、小高い丘

周囲にそこより高い場所はなく
何処までも続く砂地の地平線が見渡せた

目の前で、大きな太陽が空一面を真っ赤に染め上げて沈んでいく


「・・・す・・・げぇ・・・!」


思わずもれた、流の感嘆の声
瞬きさえ忘れて夕日を見つめる流を、ハサンが目を細めて見つめている

日が地平線に沈む・・・その一瞬の、消えいくものの最後の煌き


「・・・流」


不意に呼ばれた名前に、流が振り返る間もなく背後にあった柱へと、身体を押し付けられる


「ッつ!なにす・・・・って!?え!?」


軽く後頭部を打ち付けて抗議の声を上げた流が、目の前に居た人物に驚愕の声を上げた


「ッハサン!?おま・・何でもとの身体に・・・?!ってか、俺も?!」


そうなのだ

気がつけば、10歳頃の小さな身体だったはずなのに、それが本来あるべき16歳の身体に戻っている

おまけにハサンの、あの、妖艶ささえ滲ませた精悍でエキゾチックな顔立ちが、間近に迫って流を見つめていた


「・・・流、日が沈むと供に魔法も解ける」

「ま・・ほう!?」


間近にある顔に焦りつつも、そういえば、魔人のツボを割ってどーのと・・・このありえない状況を作り出した原因はそれだったっけ!と、流が忘れかけていたその事実を認識する


「・・・やはり、お前の紅はこの夕日に一番よく映える」


そう言ったハサンが、肩に届くほどに伸びている流の紅い髪を一房指先ですくって、その髪に唇を寄せる


「ダーッ!止めろ!お前、やってて恥ずかしくないのか!?」


ハサンのあからさまな行動も、流の口の悪さも、天邪鬼さも元通りパワーアップしているようで・・・
そういうことは女にやれ!とでも言いたげに言い放った流に


「恥かしい?何がだ?美しいと思うものに敬意を表するのは当然だろう?」


照れも億面もなくシレッと言い切ったハサンが、ますます顔を近づけてくる


「てめぇ、コラ、ちょっと待て!それって俺に夕日が見せたかったんじゃなくて、お前が見たかっただけじゃねーか!」

「どちらでも同じことだろう」

「同じじゃねぇ!なんだってお前は・・・っ」

「流!!」


不意にビクッと身体に震えが走るほどの迫力で名前を呼んだハサンが、次の瞬間、懇願するような、切なげな眼差しを流に注ぐ


「これは夢だ、流。一瞬だけ俺が望んだ・・・俺のワガママ。だから、今だけは抗わないでくれ」

「ゆ・・め・・だと?」

「そう、目覚めれば忘れる夢、だから・・・」

「っ、ちょ、ん・・・っ」


『抗うな・・・流』まるで呪文のように、その言葉を重ねた流の唇に注ぎながらハサンが流の咥内を蹂躙する


・・・・・だ・・から!抗うなとかどーとか、その前に!
    コイツ、キス、上手過ぎ・・っつか、
    レベルアップしてるってのは反則だろ・・・!


以前より更に濃密さを増した・・・感があるハサンの技巧に、流が悔しげに抗おう・・とするものの、先に主導権を握られた以上、所詮は無駄な足掻きというもので

ハサンの背後で今にも夕日が沈もうとした間際、キスから解放された流は酸素不足を補うように荒い息をつき、恍惚に酔いそうになっている瞳に力を込め、上目使いに目を眇める程度の抗議しかできない

その、上気した顔が、紅い髪、紅い瞳が、最後の夕日の紅に染め上げられて、夕日にさえ抗い勝つ

その、夕闇に包まれる前の一瞬、目に焼きついた紅


「・・・流、お前のその紅は全てに抗う色・・・忘れるな、お前は、俺だけの紅い星だ」


流の耳元で囁いたハサンの唇が、日の落ちる直前、滑り落ちた流の首筋に目に焼きついた紅そのものの痕を刻んでいた













「・・・・てめぇ、待ちやがれっ!」


ガバッ!!とばかりにベッドから起き上がった流が、そんな寝言と供にとんでもなく火照った顔を、両手で覆う


「・・・って?あ・・れ?俺、何の夢見てたんだっけ・・・?」


寝言を叫んだ途端、見ていたはずの夢の内容が綺麗さっぱり流の記憶から消え去っていた

が、ふと感じた下半身の違和感に、ドッと流が気落ちした


「・・・ゲ、若気の至り・・・ってか、俺ってば欲求不満?」


久しぶりに汚してしまった下着の事もあり、流が朝風呂へと向かい脱ぎっぷり良くパジャマを脱ぎ去っていると、同じく朝風呂目的でやってきた麗が顔を覗かせた


「あれ?珍しいね朝のジョギング前に風呂なんて・・・って、流、なに色っぽい物つけてるの?」


不意に嬉々とした顔つきになった麗が、『へ?』と訳が分かっていない流に近寄った


「・・・ほら、ここ、なんとも見事な真っ赤な真紅のキスマーク」


言いながら鏡の前に流を立たせ、その場所を流に分かるように指し示す


「え!?な・・・んで!?・・・って、あ・・・・!」


不意に口元を押さえ、耳朶を染め上げた流の様子に、麗が興味津々・・・とばかりに問いかける


「うわ、何?その反応?お相手は誰?これだけクッキリ残すなんて、相当に激しい人だよねぇ?」

「し、知るか!出てけ!麗!」

「うっわ!何なのその反応!ちょっとマジで誰なのか教えてよ!」

「うるさい、黙れ!出ていきやがれ!!」


怒鳴りつつ強引に麗を押し出した流が、『ハァ・・・ッ』とばかりに床にへたり込む


「・・・ざけんなよ、ちくしょう、何が夢だ・・・ばっちり覚えてるじゃねーかよ・・・!」


ブツブツ・・・と呟いた流が、次の瞬間


「くそっ!今度は絶対、俺のほうからしかけてやるから、首洗って待ってやがれ!!」


そんな気勢を上げ、ドアに張り付いて聞き耳を立てていた麗を無駄に喜ばせてしまっている事に、きがついていなかったのである












ちなみにハサンは同じ頃・・・

宝物殿の中で割ってしまったツボを、再び使えないものか・・・?とばかりに熱心に修復作業に没頭していたとかいなかった・・・とか。



=終わり=

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