王子とボディーガードとマジシャンと
ACT 12
眠っているのだけれど、自覚が薄い・・そんな浅い眠りが続く
アルの胸の中に抱き込まれて眠ることは、決して嫌なことではなく、むしろ安らぎさえ感じてしまっていることを、北斗は認めざるえなかった
なのに毎晩続く、浅い眠り
そして本当はその浅い眠りの理由にさえ、もう、北斗は気がついていた
ただ、気がついていない・・見て見ぬ振りで誤魔化しているだけで・・
そう
ただ一度、認めてしまえばいいだけの、薄氷の危うい足元に
その日
船内にある医療施設から戻ったアルの右手に巻かれていた包帯が、なくなっていた
代わりにいくつかのガーゼが貼り付けられ、ケガの完治が近いことを物語っていた
船が出港してからいったい何日たったのか・・?
ケガの治り具合からみても、そろそろ旅も終わりに近いはずだ
なんとなく・・・
いつまでもこの旅が終わらないかのような錯覚に陥っていた北斗が、ふと、マジックを披露する手を停めた
「・・?どうした?北斗?」
いつものように、北斗の繰り出す絶妙なカードマジックに魅入られていたアルが、怪訝そうに眉根を寄せた
北斗は、手元のカードを見つめたまま、微動だにしない
「・・・北斗?」
もう一度呼びかけたアルに、北斗がようやく顔を上向けた
「アル、お前は・・この船から降りたらどうするんだ・・?」
その問いに、アルの口元がわずかに上がる
「・・・お前次第だ・・北斗」
「・・俺?」
思わず見つめあった視線に、北斗の鼓動がドキリと跳ねる
艶めいた低い声音、上目遣いに見上げてくるような視線
いつのまにか、そんな仕草一つにまでアルを意識するようになってしまっている
それに・・「お前次第」とは、どういうことなのか?
北斗が跳ねた鼓動を押し隠し、何食わぬ顔で問いただす
「俺次第とはどういうことだ?お前は俺のボディーガードなんじゃないのか?」
「ああ、この船を降りるまではな・・・」
含みを持たせた言い方に、北斗が更に問いかける
「なんだ?それは?まるで船を降りたら違うとでも言いたげだな?」
「・・・そのとおりだ」
「な・・に?」
唖然とした北斗の顔に、アルの指先が伸びる
その指先が、頬にかかっていた髪をかきあげた
「・・・言っただろう?俺はカゴの中の鳥だと。カゴの中に捕らわれている鳥は自分からそのカゴを出ることができない。お前は・・・まだファハドに契約解消を取り消す条件を提示していない・・・」
「契約解消を取り消す・・条件・・?」
アルの言った言葉を繰り返したその口元を、髪をかきあげた指先がツ・・となぞる
確かに、ファハド国王と口論になった時、北斗は「契約はこれで解消だ・・!」と言い放った
その北斗に対し、ファハドは「その解消を取り消す条件はなんだ?どんなことでも請合おう」と言っていたのではなかったか?
「・・・だから、お前次第なんだ」
あの時の口論の場面を思い起こしていた北斗の眼前に、いつの間にかアルの精悍な顔立ちが迫ってきていた
目の前に、吸い込まれそうなほど青い、ライトブルーの瞳
口元を撫でた指先が、その瞳に捕らわれたままの北斗の顎を捉えて上向ける
やがて降りてきたアルの薄い唇は、けれど、軽く触れる程度のついばむようなキスだけを落として離れていった
「・・ア・・ル?」
ハッと目を見開いた北斗を置いて、アルがきびすを返して奥の寝室へと続くドアを開ける
そのまま、振り返らずにアルが言った
「・・今日から好きな所で寝ていいぞ。ケガも治った。お前が負い目に感じるものは何もない」
言いたいことだけを言い放つと、そのままドアを閉めてしまった
茫然とその後姿を見つめていた北斗が、ドアが閉められた途端、吐息を吐く
アルが「お前次第だ・・」と言った理由を、ようやく北斗は理解した
つまりは、アルが自分の意思で北斗を守れるのは、契約の代償だという、この船に乗っている間だけ
降りてしまえば、再びファハド国王のもと、ハサンのボディーガード役に徹する事になるのだろう
だが
北斗が再びファハドとの契約を持続し、その条件としてアルを自分のボディーガードとして付ける事を提示すれば、それは恐らく叶えられる
北斗と共に、公演先を常に一緒に・・ボディーガードとして
そして
それだけでなく、今、それ以上のことを求められていることも、この航海の間に思い知っている
ずっと、毎晩、背後から抱きしめられて眠っていたのだ・・・
双丘に押し当てられた、アルの熱い高ぶりに気が付かないはずがない
それでもアルは、誓いどおりに北斗に手を出すことをしなかった
唯一触れてきたのが、あの、初日の日だけ
後はただ、北斗を抱きしめて眠っていただけだ
そのアルの、北斗に対する真摯な思い
それを受け入れるかどうかも、アルは北斗の意志に任せたのだ
背後から抱きしめて、背中の傷痕を温もりで包み込んだのも、ケガがほぼ完治するまで待っていたのも
全ては、北斗を今までのしがらみから解き放ち、負い目やあの事故の後遺症とも関係なく、今の北斗自身に選んでほしいがため
過去にこだわるのではなく、前を見て、共に生きていくために
「・・・だったら」
小さく呟いた北斗が、手にしていたカードをカタン・・と机の上に置き、立ち上がった
外はいつの間にか、もう、闇色に満ちている
バルコニーに出た北斗が、その夜独特の冷気に体を震わせた
見上げる天空には、降る様な星空
彼方に見える北斗七星の中に、アルと同じ名前の星が「添え星」の名前に相応しく微かな輝きを放っていた
以前なら、見上げただけでどこか苦しくなっていたものが、今はもう、ない
星も宙(そら)も、形は変わらないが、確実に天空を動いていく
立ち止まることなく、後を振り返ることなく、ただ前だけに
「・・・ごめん、宙。長い間、君も七星も俺が動けなくしていた。俺が前に進まなきゃ、アルの時間も止まったままなんだ・・・」
その呟きは、呵責でもなく、気負いでもなく、ただ今を生きるためのもの
止まった時間を動かせるのは、共に止まった時間を共有してきた者のみ
背中の傷痕と共に凍り付いていた時間を、アルは時間をかけて、ゆっくりと溶かしてくれた
その時感じた居たたまれなさと眠りの浅さは、その温もりを失う痛みを怖れているから
それを受け入れてしまったら、もう二度と手放せなくなると分かっているから
北斗を分厚く閉ざしていた氷塊は、もはや薄氷となって北斗の足元に居座っているのみ
その薄氷を未だに保っている要因は、それを砕いて堕ちていった先への不安
けれど、今なら北斗には確信があった
堕ちて行く先には、あの、どこまで青いライトブルーの瞳と、闇を明るく導く金色の輝きがあるという事に
そして
あの、自分のマジックを見ているときにだけ向けられる少年のような笑みが・・自分自身にではなく、そのマジックに対して向けられている・・・
その事に・・マジシャンになって初めて、北斗は虚無感を抱いていた
今まで一度だって、そんな感情を持ったことなどなかったのに・・
ク・・ッと笑った北斗が、自分の手を見つめた
「・・・重症だな。他の誰かといる時にカードを置いてくるなんて」
北斗が初日に見せたように、カードは北斗の商売道具であると同時に、密かに身を守る武器としてきた代物だ
それは常に肌身離さず身につけてきた
例え自分一人の時でさえ、手放すことなく
それなのに、さっき北斗は自分からマジックをする手を停めた
無意識にテーブルの上にカードを置いて出て来てしまったのだ
ギュッと北斗がその手を握り締める
もう、その行為の理由は分かっている・・自分が本当は何を望んでいるのか・・
下を向き、自分の手を見つめていた北斗の口元がゆっくりと上がる
一瞬、天空を見上げ、大きく深呼吸すると部屋の中へ戻るべく、きびすを返した
カチャン・・
北斗が迷うことなく寝室のドアを開けた
思ったとおり、アルは明かりもつけず、足元を照らすフットライトに照らされながら、ベッド脇のソファーでいつものように脚を組んで座っていた
薄闇の中、肘掛の上に肘をつき、まるで眠っているかのようにその青い瞳を閉じて・・微動だにしない
「・・・いつもそんな風に寝ているのか?」
アルの前に立ち、腕組みをした北斗がその金色の髪を見下ろす
「長年の習慣だ。お前が側に居ないのに横にはなれない」
瞳を閉じたまま、アルが抑揚のない声音で即座に返事を返す
おそらく、ハサンのボディーガードをしている時も、こんな風に寝ているのだろう・・
いつもは、肘掛ではなく、銃身に身体を預けて・・
常に周りにあるものの気配を辿り、神経を尖らせたまま、意識を保ったままの眠りを得る
そんな事が当たり前の生活・・それがこの男にとっての日常なのだろう
「・・・じゃあ、俺が一緒に居る時ぐらい、横になって眠ったらどうだ?」
落とされた北斗の言葉に、アルがようやくその瞳を開けた
「俺は好きな所で寝ろと言ったはずだぞ?・・・分かって言っているのか?」
見上げてきたアルの青い瞳から視線をそらさず、北斗が真っ直ぐに見つめ返す
「お前がそうやって眠れないで居るのに?」
「・・・俺はお前のボディーガードだぞ?それが普通・・」
「勝手に決めるなっ!」
アルの言いかけた言葉を打ち消すように言った北斗が、思わぬ語尾の強さに、自分で驚いたように視線を彷徨わせた
「北斗・・・?」
訝しげに眉根を寄せたアルに、北斗が「ハァ・・」とため息を吐いて、彷徨わせた視線を自分の指先に落とす
「・・・俺は、お前にとって何なんだ?ただのマジシャンか?ファハドにとって有利に使えるただの道具か?何のためにお前は俺のボディーガードなんてするんだ?」
流れ出た言葉は、北斗がずっと誰かに問いかけたかった言葉
アルに助け出されたあの日から、いったい何枚の仮面を被り、何役を演じてきたのか・・
マジシャンであり、客を楽しませる道化であり、ファハドのために諜報活動まがいの役も演じ、父親でもあり・・
求められるままにその姿を演じてきたのだ・・そうする以外、生きていく術を知らなかったから
問われたアルがゆっくりとソファーから立ち上がり、指先に落とされた北斗の視線を上向けると、その彷徨う瞳を逃げることを許さないとばかりに覗き込む
「・・・その問いの答えが欲しいなら、答えろ、北斗。今、ここに居るお前は、何者だ?」
逃げ道をふさがれた北斗の瞳に染み入るように広がる、どこまでも青いライトブルー
それはまさに、何処果てるとも知れず堕ちていく事を望んでしまう・・色
「・・俺は、ただの浅倉北斗だ。今の俺にはマジックも仕掛けもカードも何もない。一人で泣く事も出来ず、まともな父親にもなってやれない・・ただの情けない男だ」
全ての仮面を剥ぎ取った自分は、醜い火傷の傷痕を引きずりながら誰かにすがって生きていくことしか出来ない、弱い男
少しでも気を緩めれば、何処までも広がる果てしない闇の中へ落ち込んでいってしまう・・・
それが分かっていたから、そんな自分を覆い隠してきたのだ・・見て見ぬ振りで。気づかないように
北斗の漆黒の瞳に闇色の暗い影が宿る
アルの指先が優しく、そんな北斗のうなじにかかる髪を梳く様に撫で付けた
「その北斗なら、俺はボディーガードじゃない・・・」
見つめるアルの青い瞳の中に、それまで決して見られなかった愛しむような輝きが宿る
「ただの浅倉北斗が、俺の手に入れたいと望む人間だ・・」
耳元で囁くように落とされた言葉
『ピシ・・ッ!』と、北斗の足元に居座っていた薄氷が乾いた音をたてた気がした
「・・・愛してる」
まるで注がれるように耳元に落ちた言葉
・・ああ、もう、無理だ・・と、北斗の瞳が閉じられる
途端に『パリンッ!』と薄氷が割れた音が北斗の脳裏に鳴り響き、その身体がまるで支えを失ったかのように宙に浮いた
堕ちていく・・・!
そう思った途端、耳元でギシ・・ッとベッドのスプリングの音が響く
一瞬だけ背中に感じたと思ったシーツの感触がなくなり、フワッと浮き上がったかと思うと力強い腕にギュッと抱きしめられた
「・・・傷を、見てもいいか?」
うなじを食みながら落とされたその言葉に、北斗がゆっくりと瞳を開ける
堕ちた身体をしっかりと抱きとめる力強い二つの腕
目の前にあるのは、闇色なんかじゃない・・艶やかで眩しい金色の輝き
北斗の瞳が細まり、その柔らかい金色の草原に沈み込むようにアルの耳元を探し当て、答えを注ぐ
「・・・ああ。その傷を見ていいのは、ここに居るお前だけだ」
いつの間にボタンを外したのか・・
北斗のシャツを肌蹴たアルの熱い手が、滑るように肌の上をなぞり、シャツを剥ぎ取る
抱きしめていた片方の腕が解かれ、北斗の胸がアルの廻された腕ごとベッドの乾いたシーツが押し当てられた
もう一方の腕が、スル・・ッとその背中の傷跡を首筋から優しく指先でなぞっていく
「・・ん・・っ!ぁ・・!」
途端にビクンと反り上がった北斗の胸元を、まさぐるようにもう片方の指先が蠢いていく
「ぅ・・あ・・っ」
背中に触れられて敏感になった全身に、粟立つような感覚が走る
それに乗じて触れられる以前から固くなった胸の突起を、アルの指先がその固さを確かめるように撫でまわした
「は・・ぁっ・・やっ」
思わずその動きを牽制するように北斗が胸をベッドに押し付ける
けれど今度は、それをいいことにアルの唇が啄ばむようなキスを落としながら、背中に広がる火傷の傷痕の上を降りていった
「・・ッア・・ル!ば・・か!や・・めろ!」
依然胸元の突起をまさぐる悪戯な指先を、北斗が必死の思いで止めようとしている間に、シーツを固く握りこんでいたもう片方の北斗の手に、背中を撫で付けていたアルの手がその固さを解きほぐし、絡みつく
「・・・この傷は俺のものだ。他の誰にも触れさせない」
ビクビクと跳ねる北斗の反応を確かめながら、アルが何度も所有印を刻むように啄ばむようなキスを傷に落とす
誰にも触れさせなかったその傷痕は、いつの間にか刺激に対して過敏に反応するようになっていた
背筋を駆け抜けるむず痒いような痺れる感覚
焦れるようなゾクゾクとした、苦痛とも快感ともいえないもどかしさ
背中を這うアルの薄い唇と、その動きに合わせて撫で付けていくくすぐるような金糸の髪の感覚
あの、一番最初にアルに掠め取られたキスのときに感じた痺れる様な感覚は、この予感だったのかと思わせるほど、触れられるたびにそこから電気のような痺れが駆け抜ける
あの時からきっと、アルは既にこの傷に触れていたのだ
背中の傷痕と同じ、北斗の心の中にある傷に
アルに絡め取られていた北斗の指先が、ギュッと意志を持ってその指を握り返す
「・・・ほ・・くと?」
北斗の見上げるようにして訴える瞳に気が付いたアルが、身体を浮かす
その下で身体を反転させた北斗が、アルのシャツに手を伸ばした
「・・俺だけなんて、嫌だ。お前の傷にも触れさせろ・・!」
マジシャンならではの素早さでアルのシャツを剥ぎ取った北斗が、その完璧に鍛え上げられた肉体をベッドの上に押し倒した
間近で見るその素肌は、やはりブロンズ像のように光沢があって滑らかだ
其処に刻まれた大小さまざまな傷痕に、北斗が一つ一つ口付けていく
触れる傷痕と共にどんな心の傷に触れているのか、今の北斗には分かりえない
けれど、「この傷痕は俺そのものだ」と言ったアルに、「背中の傷痕ごと俺のものだ」と言ったアルに
自分もそう思っていることを、ただの浅倉北斗が、アルの心と体の傷に触れられる存在になりたいと望んでいることを
はっきりと自覚した北斗が、それを伝えたくてアルの傷痕に愛しむように触れていく
北斗のされるがままにしていたアルの腕が北斗の細い腰を掴んで引き寄せ、その互いに熱く昂った中心の存在を知らしめた
ハッと顔を上げ、擦り付けられて更に硬度と熱量を増してしまった羞恥に、その先を求めるアルの艶めいた眼差しに、北斗の顔が赤く染まる
求められるままに互いに全裸になった北斗の身体を本格的に組み敷いたアル薄い唇が、その耳元で何度も低く「・・北斗」と、呼びかける
呼ばれるたびに北斗の触れられていないはずの背中の傷に、甘い痺れが駆け抜ける
背中にすれるシーツの刺激すら敏感に反応し、小さく背を反らすたび、今度は胸の突起を甘噛みされ、指先でこね回される
「はぁ・・っ・・ア・・ルっ・・ん」
上がる嬌声も、その全てを吐き出す前にアルの唇で塞がれて呑み込まれ
互いの舌を絡め合い、我を忘れて貪りあうようなキスを繰り返す
その間に北斗の谷間に撫で下ろされたあるの指先が、明確な意図を持って固く張り詰めた物を扱きあげる
「あ・・あぁ・・っくぅ・・!」
全身で感じる快感に、北斗が成す術もなく、目の前の逞しい褐色の体にしがみつく
耐えられなくて放った白濁が互いの谷間を濡らし、その滴る粘液をまとったアルの指先が、その奥にある蕾をゆっくりと解きほぐしていった
「く・・っう・・っ」
初めに感じた違和感が、やがてむず痒いじれったさをもたらしていく
次第に増やされる指の合間にも、絶えずアルは北斗の名を囁きながらキスと執拗に胸の突起に愛撫を繰り返す
その手馴れた仕草に・・翻弄されて、なすがままの自分に・・
北斗が潤んだ瞳で懸命にアルに問いかける
「ア・・ルッ!お・・まえ・・?!」
「心配するな・・初めてのときの苦痛も慣らし方も・・全部知ってる。お前に、苦痛は与えたりしない・・絶対に」
そう答えたアルの青い瞳に、一瞬暗い影が宿ったことを北斗は見逃さなかった
全部知ってる・・ということは、アル自身がそんな目にあった事があるということ・・
宿った暗い影が、それが決してアルの本意でなかったであろう事も伺わせるに十分だった
だから・・
アルは北斗が自分の意思で決めるまで、何もしないと誓っていたのだ
・・・どこまで、この男の闇は深いんだ・・?
絶え間なく与えられる快感の中で、北斗がアルに対して何もかも包み込んでしまいたいという思いを抱いていた
人を守るということは、その痛みを全て代わって引き受けると言うこと・・
これからは、その痛みを全て共有出来たら良い・・!
そんな思いが北斗の腕を伸ばして、アルの顔を引き寄せた
「・・ア・・ル!俺を・・守れ。俺以外・・もう、誰も・・守ったり・・す・・るな!」
その北斗の瞳に応えるように、アルの指先が引き抜かれる
「・・ぁあ・・!」
思わず感じた虚無感に、無意識に北斗の腰が浮く
「ッアアァ・・ッ!」
次の瞬間、押し当てられ、入り込んできた熱さと今までと比べ物にならない質量に・・!
北斗の全身が跳ねる
けれど、時間をかけて、じっくりと慣らされたその場所は、ゆっくりと繰り返される浅い抜き差しに・・ゆっくりとその質量と暑さを苦もなく呑み込んでいった
今まで感じた事のない、熱さと質量とが体の中心に宿っている
薄い粘膜を通して感じる、アルの熱い脈動
「・・ア・・ル・・!」
艶めいた声音でその耳元にその名を呼ぶと、途端に宿った質量がドクンと震えた
その事が、北斗の中で例えようのない充足感をもたらしていた
自分の体の中に、アルの一番熱い部分が繋がれている
互いの熱を分け合って、隠しようのない、剥き出しの本能を、これ以上ないほど間近に感じあっている
それが、こんなに愛しいと思えるなんて
まるで許可を与えるように北斗がアルの首筋を引き寄せて、うなじにキスを落とす
「北斗・・!」
耳元で熱く囁かれた途端に動き始めたその熱さが、もどかしさを感じていたポイントを、正確に擦りあげる
「あ・・・はっ・・・あぁあ・・っ」
苦痛を与えないと言ったその言葉どおりに、アルは北斗に快感以外のものを与えなかった
どうしていいか分からなくなるほどの突き上げてくる快感に身悶えし、抜き差しのたびに響く濡れた淫猥な音が堪らない羞恥を煽ることが、唯一の苦痛
互いに上り詰め、ドクンと大きく波打って体の中に広がったアルの熱い奔流を、北斗の粘膜はまるで逃すまいとするかのように蠕動し、その喜びを共に分かち合っていた・・・
ふ・・と背中に感じた冷気に北斗が身震いをし、目を開けた
振り返ると、アルが再びベッドの中に滑り込もうとする直前だった
「・・アル?起きて・・どこかに行ってたのか?」
背中を抱きこんできたアルの身体は、部屋の中の温かさとは違う、明らかに外気の冷気を身にまとっていた
「・・ふ、どこだと思う?」
鼻で笑ったアルの様子が、今までになく上機嫌だ
「・・・?アル?」
首だけを捻じ曲げてアルを見上げた北斗の視界いっぱいに、アルの無邪気に笑う少年のような笑み
マジックを見ている時以上に楽しげな・・マジシャンではない北斗にだけに注がれた、笑み
その事実に、北斗の瞳に思わず涙が滲む
「北斗・・?どうした?」
問われた途端に零れ落ちた・・涙
今まで七星以外の前で、泣けた事がなかったのに
途端にアルの表情に戸惑いが浮かぶ
「・・・後悔、しているのか?」
思いもかけないことを問われた北斗が、慌てて首を振る
「違・・う!そうじゃない!嬉し・・かったんだ。お前が、マジシャン以外の俺の前で・・初めて笑ってくれたから」
「北斗・・」
アルの表情が、さっきより、更に屈託なく笑う笑みへと変わった
「なら、さっきやってきたことが無駄足にならずに済む・・」
「・・・?」
訳が分からないままの北斗の腰をグイッと引き寄せたアルが、その、ついさっきまで数え切れないほどイキまくり、繋がっていた双丘に再び硬度を増したものを擦り付ける
「・・っ!?ちょ・・ア・・ル!?」
思わず逃げを打った北斗の腰を、アルが有無を言わさず引き戻す
「心配するな。さっき、船の動力の電気系統の一部を壊してきた」
「・・っな・・に!?どういうことだ!?」
「船は本当なら明日にでも港に入港するはずだったからな・・。2〜3日の時間稼ぎだ」
「お・・まえ!なんてこと・・・んんっ!?」
言いかけた北斗の抗議の声を封じるようにその唇を貪り、互いに全裸のままの北斗の双丘の奥・・未だ熱さえ治まってはいないその場所に、アルの指先が滑り込んだ
「・・ん・・んぅ・・っ」
驚くほど滑らかに、アルの指先が3本北斗の柔らかな体内に侵入する
その奥に留まっていた残滓を掻き出すように、その3本の指先がバラバラに体内を掻き乱した
堪らず仰け反った北斗の唇が、アルに塞がれていた嬌声を上げる
「は・・っあ・・やっ・・」
「・・・ん?嫌なのか・・?」
意地悪い笑いさえ含んだ声音が耳朶を震わせ、北斗の中から指が引き抜かれた
引き抜かれるその指先を押し留めるように収縮した粘膜が、再び熱い蜜を滴らせ、北斗が無意識に太股に当たっていたアルの熱い楔に双丘を擦り付ける
「ア・・ル!」
北斗の口から、濡れた甘い声音が吐息と共に溢れ出て、いったん溢れた涙もまたその先をねだるように流れ出る
「・・北斗」
北斗の身体を上向けたアルが、その涙に濡れる黒髪を優しくかき上げ、流れる涙を唇で吸い上げていく
「いつでも泣いていいぞ・・北斗。俺がいつでも受け止めてやる・・」
その言葉に、北斗が艶然とアルを見つめ返す
そんな北斗の眼差しに見つめられては・・焦らすつもりでいたアルの方がそんな余裕を失った
3日後
原因不明のトラブルで航行不能になった豪華客船が、ようやく港に入港した
タラップを降りる人込みの中に、カーフィアを目深に被った男に支えられるように歩く、ムッとした表情の北斗がいた
「・・・お前とは二度と船旅はしないからな・・!」
鉛のように重い体をアルに支えられながら、北斗が毒づく
「そうか?だが、嫌だとは言わなかったお前にも半分責任はあるだろう?」
目深に被ったカーフィアの奥で、ライトブルーの瞳が北斗の瞳を覗き込む
「・・・し、知るか・・!」
たちまち頬を朱に染め、北斗がそっぽを向く
今までは決して人に預けなかったその背中を、今はアルの胸に存分に寄りかからせて・・・
=終わり=
お気に召しましたら、パチッとお願い致します。
トップ
モドル