始発恋愛〜その後〜












「遠矢(とおや)さん・・・」

艶を含んだその声に、思わず背筋が震える

「っ、ちょ・・先、風呂・・・!浩介(こうすけ)!」

「ダメ、遠矢さんの匂いが落ちる」

「わ、ばか・・・やめっ」

いつもの展開に、抗う術も無くシーツに押し付けられた





こいつと知り合ったのは、仕事に向かう始発電車の中だった

痴漢にあった僕を助けてくれて

それをきっかけに、こいつの隣が僕の指定席になった

僕の事を”眠り姫”だと言った、こいつは

僕より10センチは身長が高くて

大人びた雰囲気で

僕より年上に見えた

ところが・・・!

なんとこいつは、3つも年下の大学生、だったのだ

如何にも年上っぽかった口調は

年下だとバレたら相手にしてもらえないかも・・・

そんな危惧からそうなってしまっていたらしい

それを知ってから

僕は自分の事を「遠矢さん」と、”さん”付けで呼ぶ事を

こいつを「浩介」と呼び捨てで呼ぶ事を

付き合う条件として、認めさせた

おまけに

なんだって学生が始発電車に!?

しかもどう見ても朝帰りな服装と雰囲気で!?

と、問い詰めると

叔父が経営するホストクラブでバイトをしていた・・という

黒光りする、あのバイクを買うために

しかも

既にその代金分は稼いでいて

バイトをする必要もなくなっていた

でも、”眠り姫”・・つまりは僕に会いたくて

そのためだけに、バイトを続けていたらしい

そんな事実を聞かされて

こいつの・・浩介の我が儘な申し出を拒否なんて出来なかった

つまり

僕は浩介と同居を始め

朝の早いパン屋の職場まで

毎日、浩介のバイクの後に乗って通勤している

始発電車の指定席が

浩介のバイクの後・・という指定席に変更を余儀なくされたと言う次第

”眠り姫”の寝顔を見ていいのは、俺だけだから・・・!

そんな言葉を平然と言い放つ浩介は

やっぱり、かなりのロマンチストでガキだと、思う






最初の時からそうだったけど

浩介は僕の身体に染み付いたパンの匂いに

妙にそそられるらしい

いつも

まるで食い尽くそうとしているかのように

僕の全身を食んでいく

凄く、幸せな気分になれる匂いだ・・・

僕の耳朶を甘噛みしながら、そんな風にいつも言う

僕より3つも年下なクセに

その愛撫は手馴れていて、しかも執拗だ

今も

浩介に触れられた時点で既に固くなった胸の突起を

浩介の指先がもてあそんでいる

最初はその硬さを確めるように

指先で円をくように捏ね回されて、腰に震えが来る

すぐに芯を持って固く尖ったその頂を

浩介の親指がグリ・・ッと押しつぶす

「ん・・・あっ」

耐えていた声が、思わず漏れる

すると

鎖骨を食んでいた浩介の唇が伝え降りてきて

もう片方の立ち上がった突起を含んで舌先で刺激する

「ん・・・っ」

そんな風にされると、もう、だめで

つい

浩介の背中にすがり付いてしまう

「遠矢さん・・・」

注がれる濡れた声音だけで、いきそうになる

触れ合った下肢の熱さが急速に高まっていく

飽きることなく落とされるキス

そのキスの合間にいつの間にか忍び込んだ浩介の指先が

柔らかい粘膜にいやらしい音を立てて

潤滑剤を塗りこんでいく

その刺激に

そのじれったさに

両足が無意識に浩介の腰に絡んで締め上げる

「遠矢さん・・・かわいい」

クスリ・・・と浩介が笑う

その憎たらしい声に

「や・・・も・・・ぅ」

自分の声にならない喘ぎ声に

身体が反応する

押し当てられた熱さを、体内に呑み込んでいく

「遠矢さん・・凄く、いい」

耳から追う快感

「こ・・すけ・・・っ」

掠れた自分の声でさえ、体の熱を上げる

「遠矢さん・・いい匂い・・一番好きな遠矢さんの匂い」

そんな言葉と供に浩介がゆっくりと動き出す

濡れた音が耳から抜き差しのリズムを身体に刻む

堪えきれなくなった声が、必死に快感を追う

浩介の獣の吐息も

響く濡れた水音も

何度も呼んだ浩介の名前も

何もかもが分からなくなって

溶け出して

僕はまた

”眠り姫”のように果てて眠りに付く

目覚める時は

いつも

浩介のキス

きっと

こんな幸せな目覚め方をする”眠り姫”なんて

世界中探したって、僕だけだよな・・・

そんな風に思って

実は僕も、いい加減ロマンチストでガキだったんだな

なんて思った






 =終わり=



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