始発恋愛









ACT 7









好きなのか・・・?

そう思い始めると

それを否定する事が出来なくなっていた

それを一番自覚したのが

次の日

どんな顔してあいつに会えば良いんだ?

そう思って、ドキドキした時だった

なんで・・・

なんで、男相手にこんなにドキドキしなくちゃならないんだ?

あいつが乗ってくる3つ目の駅が近付いてきて・・・

僕はようやく、その理由に気がついた

僕は

あいつが僕を見た瞬間

きっと笑ってくれる・・・!

そう確信していた

だから

その笑顔が見られることに、こんなにドキドキしている

あいつの笑顔を期待して・・・

ただそれだけで、こんなにも

そして

3つ目の駅で、そいつが乗って来た

予想通り

俺の顔を見た途端

そいつはいつもの笑み以上の笑顔をくれた

これ以上ない・・・と思うほど、心臓がドキンッと跳ね上がった

やっぱり

やっぱり、僕は

こいつの事が好きみたいだ

自覚した途端

僕の顔にもそいつ以上の笑顔が浮かんでいた

好きな人が、すぐ隣で笑ってくれる

こんな嬉しいことはない

やっと自覚できたのに

それなのに

そいつは、僕のその笑顔を見た途端

急に

笑みを消し去って、僕から視線を反らしてしまった

「・・・・・え?」

その突然の出来事に、僕は固まった

なに?
なんで急に?
僕が笑い掛けたのが嫌だった?
僕が・・・好きなんだってバレタ?
だから気持ち悪くて・・・?

思考がどんどん悪いほうへ転がっていく
好きなんだ・・・って気がつかなきゃ良かった

なんだか、居たたまれなくなった

嫌がられたのなら、ここに居ない方が・・・!
もう、そんな風にしか考えられなくなっていた

「・・・あ・・の、僕、あっちに行くね」

そう言って立ち上がろうとしたら

「っ、なんでっ」

不意にそいつがシートに置いていた僕の指を掴んでそう言った

その瞳には、明らかに僕を非難する色合いが滲んでいる

僕はますますわけが分からなくなって

そいつのその態度に、段々腹が立ってきた

痴漢から僕を助けたくせに
隣に座れと言って来たのに
あんな笑顔をくれたくせに

それなのに

急に僕をを拒絶するような態度をとるし
そうかと思えば
僕を責めるような眼差しを注ぐ

嫌なら離れてやろうとしてるのに
それすら腕を掴んで出来なくする

「・・・いったい、なんなんだ!?」

思わず口からそんな言葉が流れ出ていた

僕のその非難めいた口調に

そいつも僕を責めるように睨み返してくる

しばらく睨み合っていたら
そいつの方が先に視線を反らして項垂れた

そして

僕が立たないようにシートの上で掴んでいた指先に力がこもる

「・・・賭け、俺の勝ちだよな?」

項垂れたまま、そいつが不意にそんな事を言った

「え・・・?あ、うん」

「賭けなんだから、当然、負けたあんたが代償を払うんだよな?」

「・・・そう、なるね」

そういえば賭けの代償を聞いてなかったな・・・と思ってそう言った

「・・・・じゃ、忘れて」

「は・・・?」

「俺の事、忘れて。全部」

「え!?」

「明日からは、もう、乗って来ないから」

「っ!?」

僕は絶句した
全然意味が分からない

なにそれ?
一体どういうこと!?

わけが分からなくて、茫然とそいつを見つめていたら
そいつが降りる、終点一つ手前の駅に電車が滑り込んで止まった

すると

そいつが急に項垂れていた顔を上げ僕を見つめ返した

「忘れて、全部」

もう一度、そう言うと

さっきよりもっと指先に力がこもって

そいつが立ち上がる

同時に・・・

何かが唇を掠めていった

それが

そいつにキスされたんだと分かった時には

そいつは、もう、ドアの向こうに降り立っていた

僕は

込み上げてきた怒りと供に

ドアに体当たりするようにそいつの後を追っていた

ドアは閉まる寸前に僕を外へと吐き出してくれた

同時に発車した電車が、風圧で僕を一歩前に押し出す

「・・・っ、まてよ!!」

その勢いのまま、僕は背を向けたまま歩き出していたそいつを呼び止めた

ビクンッとそいつの肩が揺れた

そして

驚いた顔つきのそいつが、僕を振り返る

「っ!?なんで・・・あんた・・・?」

僕は勝手きわまりないそいつに詰め寄った

「お前、なに考えてるんだ!?
何が忘れろだ、無理に決まってるだろうが!」

言い募ったら、そいつも責め口調で言い返してきた

「あんたの方こそ何考えてんだ!?
俺は・・・あの痴漢野郎と一緒なんだぞ!?
もうずっと前から、俺はあんたをそういう目でしか見てないんだ!
なのにあんたは、どんどん俺に対して無防備になってくる
そんなあんたに、いつまでも手を出さないでいられる自信がもう無いんだ!
さっきので分かっただろ?!」

僕はハッと目を見張った

だから

だから・・・こいつはあのおっさんの痴漢行為に気がついた
僕はこいつのそんな思いに気がつきもしないで
肩を借りて居眠りし、笑いかけた

急に態度を変えたのも
忘れろって言ったのも

何にも知らない僕を、傷つけないため・・・!?

僕は大きく、一つ、深呼吸した

そして、そいつを見据える

「・・・いいか、よく聞け、僕はお前の隣以外、どこにも座らない
 明日から始発に乗って来ないっていうんなら、僕は座る席がない
 そんな身勝手、許さないぞ」

「え・・・?」

一瞬、そいつが唖然として僕を見つめた

だから僕は、さっきくれてやった笑顔を、もう一度そいつにくれてやった

信じられない・・・という顔つきになったそいつの顔がゆっくりと笑みを浮べ、静かに言った

「・・・・あんたはさ、眠り姫だったんだよ」

いきなりな意外な言葉に、僕は目を瞬いた

「は・・・?眠り姫?」

「そう、いつ目を覚まして俺に気が付いてくれるんだろう・・・って
 そう思って、ずっと・・・見てたんだ」

「・・・見かけによらずメルヘンチックなんだな
 だったら、ちゃんと仕事先まで送ってくれ、白馬の代わりに、黒塗りのバイクでさ」

そう言ってやったら

そいつが意味ありげな笑みを浮べて、僕の顔を覗き込む

「・・・じゃ、まずは眠り姫を起こさないと・・・な」

そう言って、仕掛けられた2度目のキス

キスが終わって

目が覚めたら

まずは、こいつの名前を聞かなくちゃ・・・

そんな事を考えた





  =終わり=




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その後(18禁)