始発恋愛












ACT 6








そんな賭けをした日から

僕はあいつの横に座るようになった

特に会話するわけでもなく

ただ目を合わせて

挨拶代わりに笑みを交し合う

ただそれだけ

そう

ただそれだけなのに

なんだか、嬉しい

あいつがちゃんと挨拶代わりに笑ってくれる

ちゃんと隣に座ってくれる

いつも一人でつまらない始発だったのに

あいつに会える・・・!

そう思うだけで毎日電車に乗るのが
楽しいとさえ思えるんだから不思議だ

そんな感じで

最初の頃は適度な緊張もあってか

居眠りする、なんて事にはならなくて済んでいた

だけど

特に会話をするわけでもなく

ただ黙って座っている・・・だけというのは

規則正しい電車の揺れも手伝って

猛烈に眠気が襲ってくるものなのだ

それでも

こいつと賭けをしたんだから・・・!

と、しばらくは起きていられた

そう・・・しばらくは

そして、やっぱり

こいつが言ったとおり、僕は、居眠りをしてしまった

しかも

こいつの肩に寄りかかるという・・・大失態つきで・・・!










「・・・・・着いたぜ?」

トン・・・と額を小突かれて、目が覚めた

「え・・・?・・・あっ!?」

思わず飛び上がるほどの勢いで

寄りかかっていたそいつの肩から顔を上げる

僕のその様子に

そいつは肩を揺らして笑いを耐える

その瞬間

僕はまさに瞬間湯沸かし器みたいに真っ赤になった

気がつけば

そこは終点で、そいつの降りる駅は通り過ぎている

「・・・俺の勝ち」

込み上げてくる笑いを耐えながら、そいつが言った

本当なら

悔しいとか恥ずかしいとか

そんな風に思うはずなのに

なぜか僕はそいつの笑う姿に目を奪われていた

目尻に涙さえ浮べて、そいつが笑っている

ただそれだけで

賭けに負けてしまって、良かったかも・・・

そんな風に思ってしまっていた

ようやく笑いを収めたそいつが言う

「ほら、早く行かねーと電車出ちまうぞ?」

「え!?あ・・・!」

折り返し電車になるのだから

降りなければ電車は出て行ってしまう

何か言わなければ・・・!

そう思ったけれど

湧き上がってきた恥かしさに言葉が出ない

「あ、あの、ごめん!でもって、ありがとう・・・!」

ようやくそれだけ言って、僕は逃げるように電車を駆け降りた

あまりの恥かしさに振り返ることも出来ない

明日

どんな顔してあいつに会えば良い?

恥かしくて恥かしくて・・・

仕事中も思い出すだけで顔が真っ赤になった

そんな僕に、職場のパートのおばさんが言った

「なに真っ赤になってるの?好きな人でも出来たんでしょ!?
 最近いい顔になってるものね!」

「えっ!?」

僕は思わず絶句した

だって

会うのが楽しみだとか
隣に座ってくれるのが嬉しいだとか
笑う顔が見られて良かっただとか
どんな顔して会えば良いんだろうとか

そんな事を真剣に考えている自分がいる

それって・・・

それって、どう考えても

好きになった相手に対して抱く感情だ・・・!

う、嘘だ・・・!

だってあいつは男で

僕だって男だ

それなのに!?

そんなのありえない・・・!

そんなのおかしい・・・!

だけど

どんなに否定してみても

あいつの隣以外に座る事も
他の誰かがあいつの隣に座る事も

考えられなくなっている自分がいて

それを否定する事が

どうしても、出来なくなっていた




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